梗 概
趣味人の六日間
とある宇宙船が舞台なのだが、その船は監獄だった。
宇宙に流刑されている人間がその乗組員である。
追放刑なので一応生命維持装置が宇宙船には搭載されていた。
冷凍睡眠装置と、その補完装置としてのクローニング施設である。予期せぬ生命活動のエラー等で人体に損傷が発生すると、新品のカラダをクローン装置で作成、人格移植するのである。
暇な人間はろくな事考えないもので、クローン装置で自分が出発した当時に、地球で人気の有名女優を製作しようとする奴が居た。
彼、加山君は、長い航海の時間を人体作成に費やしていた。
当時の映像、(なぜか紛れこんでいた、無聊を慰めるための誰かの気遣いか?)から、
切磋琢磨すること約百年、航海の終わりも見えてきた頃に、その有名女優の満足のいく体が出来上がった。
ところで、そんな趣味をみんなに見逃していたかというとそうでもなくて、
批判的な同乗者もいた。
その人物、田中君は完成した彼女を見て、口論になってしまう。
慰み物にでもするつもりか、と口汚く罵る田中君。
加山君はその自分の芸術品を下劣な価値観でしか見ない田中君にカッとなり、殺害してしまう。
ちょっと後悔する加山君なのだが、長い航海中にクローン体に引越していない
乗組員は一人も居なくなっていた。人格データは残っているので、クローン装置で
カラダを作れば奇跡の復活は完成するのである。
しかし、ふと加山君は考えてしまう。田中君は非常に人格者で、良く周りに注意して煙たがられていた。
有名女優(偽)を見る。見た目は良いのだが中身はないのだ。
仏作って魂入れずなら、そこに今偶然魂になった人間がいるのだ。
なにせ何分か前に人を殺しているので、怖くて誰も止めようしない。
すぐさま考えを行動に移す犯罪者。復活した田中くん(さん?)。
殺される前の保存データで復活したので、恨みはないが疑問に思う田中くん(さん)。
どうして君が作っていた人形の中に僕が入ってるんだ?だという言われ、
言い訳を必死に考える加山君。
これから到着地の流刑惑星に到着するが、先住している人々を驚かすために
一種のコスプレとして、美しい体を手に入れて到着しようと思う。
まずは反対しそうな田中君に体験して貰って意見を聞きたかった、黙ってやって
悪かったな、と謝る加山君。田中さんも満更でもなさそうである。
何せ長い航海の中、退屈していた一同。思いつきに飛びつき、ああでもない
こうでもないと注文を付けながら新しい体を製作して貰った。
みな、美しい体を身につけ到着地に降り立つ囚人たちは、この航海の最終目的が出発地の
地球で、ある種の実験として長期閉鎖空間に置かれた人類はどうなるのかという
見世物、タイムカプセルのような物だったということを知る。
今まさに封を切られ、衆目の目に晒された美しい囚人達は皆の視線を集め、拍手を或いは笑いを浴びるのだった。
文字数:1164
内容に関するアピール
倒錯やドンデン返しが好きで、こういう梗概を作りました。
人体製作という現代から見て倒錯趣味を育んでいた人間が、
周りからどう思われるかというと、現代の倫理観と衝突する、
その衝突の結果倒錯趣味がみんなに広まるってのはありえる
話じゃないかなと思って書いていました。
一時期炎上した考えが、逆に時を得て広く認知されるみたいな
物も現代でもよくありますし。
逆にそこが狭い範囲で井戸の中、外から笑いものというのも
よくあることのような気がします。
ドンデン返しにはフリが足りない気がしますが、とにかく
入れてみた物になりました。
文字数:252