梗 概
外来種
渡良井星路は、とある位置情報ゲームにハマっていた。一種の陣取りゲームで、実世界にある特徴的な建造物が占拠すべき『スポット』となる。実際にスポットを訪れてスマホを操作することで、自陣を増やしたりアイテムを取得したりできるのだ。実家が神社なのでスポットが豊富なことも星路がハマった一因だが、最大の理由は親友の山田導がこのゲームを遊んでいたことだった。
高一の夏、重い病を患った導は休学し、自室のベッドにこもりきりになる。彼の自宅周辺にめぼしいスポットはなく、新たに申請するにも単一性・公共性・文化的重要性などの条件を満たす建造物が必要だ。そこで星路(と老若男女のゲーム仲間たち)は、導を元気づけるために、うそっぱちの祠を山田家裏手の空き地に設置しようと計画する。
校庭に落ちてた手頃な大きさの石が御神体となり、祠づくり、360度パノラマ写真の撮影とGoogleストリートビューへの修正依頼、借地権のごまかし、謂れの捏造、市の広報誌への記事掲載など、各人の技能を活かして様々な手段が講じられる。そんなある夜、謎の影が星路の夢枕に立つ。神社が祀る神を自称する影は「いたずらに信仰心を育てるな」と警告するが、ただの夢だと星路は無視する。
「御神体に触ると願いが叶う」という噂のSNS拡散が功を奏し、祠を訪れる者は増え、認知度も上昇した。知らぬ間に空き地にはベンチが設置され、祠も立派なものに変わっていた。そして十二月、ついに祠はゲーム上でも新スポットとして承認された。
星路は報告がてら導の見舞いに行くが、どうも導の様子がおかしい。祠の御利益を本気で信じているようなのだ。星路たちの祠づくりを二階の自室からずっと見ていたはずなのに。病気が治るよう御神体に願ってくれと縋る導に、何も言えないまま星路は山田家を去る。裏の祠には行列ができている。
その晩、影がまた夢に現れる。「均衡が崩れている。皆、あの偽りの祠に呑まれかけている」と影は言う。
目覚めた星路が祠に行くと、深夜にもかかわらず行列が長く伸びている。なぜかゲーム仲間たちもいて、促されるまま星路も最後尾に並ぶ。仲間と話すうちに、祠を信じてもいいかなと思わされてしまう。自ら捏造した祠の信仰に呑み込まれていく。参拝の順番が回ってくる。
そのとき星路が目にしたのは、御神体に触るため二階の窓から飛び降りようとする導だった。我に返った星路は、落ちてくる導を受け止め、祠を破壊する。騒然とする人々も、やがて我に返る。
「危うくぽっと出に奪われるところだったが、お前のおかげで助かった」と夢の中で影に感謝される。翌朝、神社の御神体が遠い昔に降ってきた隕石であることを星路は知る。おそらく、人類の知らないところで宇宙規模の陣取りゲームが行われている。本当にゲームだと良いのだが。
その後、どの神が何をしたわけでもないが、導に快復の兆しが見られる。
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内容に関するアピール
近所の公園にある時計台がポケモンGOのジム(またはIngressのポータル)になっており、いろんな年代の方がスマホ片手に集まっているのをよく見かけます。また、Ingressでは、新たなポータルとして現実世界の建物やモニュメントなどを申請すると他のユーザがそれを審査する仕組みになっていて、梗概で挙げた以外にも様々な承認条件が設けられているそうです。物語前半では、スマホゲームを通じて知り合った老若男女が、承認条件を満たすために力を合わせて無理やり祠を捏造する様子を描きます。作中のゲームは架空のものを設定します。
植物を栽培するときに周りの雑草を引っこ抜くように、何かを育てることは別の何かを駆除することにつながる場合があります。意図せずして、もとから自生していたものを枯らしてしまうこともあるでしょう。物語後半はそんな感じの展開ですが、何を雑草と判断するかは育てる人しだいな気もします。
文字数:393