天皇と青い龍

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梗 概

天皇と青い龍

天皇が現人神であった時、天皇は体内に青い龍を住まわせていた。龍と共に引き起こす数々に奇跡に、人々は驚き、天皇を神と奉った。

天皇が神ではなくなった時、青い龍は天皇から分離し、深い森の中で静かに眠りについた。

 

天皇は夢を見る。

自分を、青く透き通る龍が包み込む。それは静かな癒しで、千々に乱れた心を浄化してくれる。天皇といえども、ただの人間である。それ故の欲望や苦悩と絶えず戦ってきた。また、象徴として国民に心を寄せ続ける日々も、十分に精神を疲労させる。そうしたストレスは、青い龍に寄り添われることで、一夜にして消散した。

皇太子の時から、龍は時々やってきた。それは数年に一度程度であったが、天皇に即位してからは、一年に数回となり、やがては毎晩となった。朝起きれば、気力はみなぎっているが、体力的な衰えが日に日に顕著になる。長年連れ添った皇后は、その姿を見てとても心配し、侍医に相談した。

侍医団は、天皇の脳内に小さな石灰化を見つける。この石灰化組織が周囲の脳組織に刺激を与えて、幻覚を見せているのだろうと推測した。さらに、相談された疫学者は皇居・皇居限定の超局地的な風土病を疑った。歴代天皇、男性皇族の中に同じような病歴が見られたためだった。

その頃、歴代天皇の病歴を調査中の研究者がY染色体の異常をとらえた。天皇陵の遺体調査を希望したが却下されたため、残されている組織標本を入手、研究を開始した。歴代天皇のY染色体は、日本人の大部分が属するハプログループに一致しない。特定の塩基配列が顕著にみられる。この遺伝子がおそらく皇統の証と、Empr遺伝子と名付けられた。

時を同じくして、北上山地に建設された超大型加速器「国際リニアコライダー」の試運転が行われた。そのときに発生したミューオンが、偶然にも皇居の地下に巨大なアリの巣状構造を描出した。その公表を前に、科学者が宮内庁に相談を持ちかける。宮内庁は、皇居の地下にある巨大構造の調査を決定する。万が一にも、皇居の安全性が損なわれる事態は避けたい。

巨大アリの巣構造の発見を耳にした宮内庁の医療担当者が、念のため、病原菌等の調査もしたいと申し出、案の定、未知のウィルスが発見される。解析してみると、Empr遺伝子がそのウィルスのゲノム上に見つかった。

この一連の流れから、天皇をはじめとする男性皇族に特有のY染色体は、皇居地下の巨大構造に存在するウィルスを過去に取り込んだものであることが判明した。そのウィルスにより、天皇の脳内に石灰化が引き起こされた。天皇の幻覚をなくすためには、脳内の石灰化組織の除去が有効である。

これを聞いた天皇は、しばし考える。自分を顧みず、国民のためだけを思って存在する天皇という立場。それを支えるために、あの青い龍がいたのではないか。治療が終わり、幻覚を観なくなって、果たして天皇が務まるのか。一人沈思する天皇に、青い龍が静かに寄り添った。

 

 

文字数:1199

内容に関するアピール

初めと終わりをファンタジー仕立てにして、伝説から始まる天皇の系譜をイメージしました。

天皇を癒す青い龍は、脳内の石灰化によって引き起こされていると科学的にわかっても、なお、割り切れない思い。一人の人間が背負うには重すぎる天皇という立場。皇后を含めた周囲の人々の優しさ――など、心の動きを丁寧に文章にしたいと考えています。

また、日本学術会議が反対した国際リニアコライダーも、実現させる予定です。

梗概負けしないように、実作は計画的に書きます。

 

文字数:218

課題提出者一覧