サクラ紀

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梗 概

サクラ紀

このサクラ組には転校生が来ることが少なくない。事前に説明を受けていても転校生は教室に入ると必ず驚く。席についているのが自分と同じ姿をした人間ばかりだからだ。そして安堵する。これからはこの美貌のせいで面倒な人間関係に巻き込まれなくて済むのだと。

私たちサクラ組は集団でこの国の象徴となり国事を担っている。古くから戦乱の時代に身代わりの王を立てることはあったそうだが、私たちはそれとは異なる。平時であるが、同じ姿をした者が集められ、集団で国を治めている。時代とともに増え続ける国事は一人で担えなくなり集団で担うようになった。集団としてのアイデンティティを保つために外見が統一された。現在、この国の象徴は美しさである。遺伝的には異なっていても同じ外見をした人間は複数存在する。「私たち」と同じ外見をした人間が集められたのがこのサクラ組だ。

加齢や事故などで外見が変化すると転校してここを出て行く。転校した後のことは私たちは知らない。

私たちは女性だが、ここは女子校ではない。共学だ。女子だけでは美貌は維持できない。男子もいる。去勢された男子だ。子孫を残すことはこの組には求められていない。むしろ妊娠すると体型が変わるので不都合だ。男子たちの存在によって私たちは自らの美貌を意識することができる。彼らには秘書の役目もある。彼らも皆、同じ外見をしている。

私たちは研究者でもある。サナギの研究をしている。チョウなどの完全変態昆虫が幼虫から成虫へと完全変態しても記憶が保持される研究をしている。研究成果の一部は学術誌に掲載されている。たしなみとして研究することが求められた時、何を研究しても良かったが、私たちはなぜかこのテーマを選んでいた。たまたま庭に虫がいたからかもしれない。

外交時に私たちは体型や化粧、衣装、ダンスなどを披露する。そして知性が優れていることも示す。象徴としてこの国の水準を他国に知ってもらう手がかりに私たちはなっているのだ。

メンバーは少しずつ出入りするが、集団としての同質性は保たれている。私たちはこのサクラ組が気にいっている。だからこそ、サクラ組が永遠に続くわけではないことが残念でならない。

美しさの基準は時代とともに変わる。その時、私たちの時代は終わる。

あるいは象徴それ自体が変容するかもしれない。この国の生存戦略として現在は美しさが象徴として採用されているが、環境が変われば他の象徴を採用した方が国の繁栄に有利になるだろう。生存戦略として何が最適かは環境によって変わる。私たちは研究者でもあるからそのことはよくわかっている。

私たちはサクラ組が気にいっている。この国のことよりもサクラ組の存続の方が私たちにとっては大事だ。今できることは少しでもサクラ組が存続するよう、私たちより美しい女性の芽を摘むことだ。そして生存戦略として美しさがこの国の最適解でなくなったとしても(この国が衰退するとしても)、私たちの存続が有利だと国民に信じさせることだ。

この目論見に、ある男子が気づき始めたことがきっかけで、私たちは集団としての同質性を維持できなくなった。

文字数:1275

内容に関するアピール

実作は、小さな共同体で生じる物語(掌編)の連続のようなものをイメージしています。その共同体がどのように崩壊するかは考え中です。

文字数:63

課題提出者一覧