陛下の静かで穏やかな生活

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梗 概

陛下の静かで穏やかな生活

安久15年、ニッポン国は未曾有の皇室ブームに包まれる。天皇誕生日でもないのに、皇居周辺にはファンが連日のように押し寄せ、皇室カレンダー等の関連グッズは過去最高の売り上げを記録した。

突然の人気過熱に、皇室関係者は戸惑う。そもそも、かわいいと話題のミコ内親王&アコ内親王の男性人気はともかく、ヤスヒト天皇を女子高生達がイケオジと持てはやすのは、無理があるように感じられた。

ここで、ヤスヒト天皇が動く。皇室関連の隠密業務を請け負う忍者「戸忍流としのびりゅう」の一族に、この不自然なブームを収束させるように命を下したのだ。ヤスヒトが大事にしている皇室伝統の「静かで穏やかな生活」が脅かされた時、戸忍忍者は出動する。普段、商店のシャッターの中に潜んで暮らす彼らは、静かで穏やかな生活を守ることにかけてはプロだ。

戸忍の一族は、隠れ里であるシャッター商店街を飛び出し、皇居周辺に犬のフンを撒き、SNSで画像を拡散するなどして、プチイメージダウンに奔走。皇居に押し寄せていたファンの足を遠のかせることに成功する。

しかし、一度はおさまりかけた皇室ブームは、見事な歌と踊りを披露するミコさま&アコさまのお宝映像の拡散によって再燃。戸忍の一族の調査によって、これが戸忍忍者を破門になった抜け忍「戸破流とやぶりりゅう」の一族の仕業だと判明する。

さらに戸破流一族は「実は天皇陛下はめちゃくちゃ歌がうまい」という根も葉もない噂を拡散させる。それは、最終的に「天皇陛下&ミコさま&アコさま」を紅白に出場させるという、なんとも畏れ多い「紅白計画」の下準備なのであった。

戸忍忍者は、戸破忍者について調べていくうち、彼らに指示を出していたのが、ミコさま&アコさまの父親、タダヒト皇太弟だとわかる。彼は、ヤスヒト天皇の怒りに触れ、ミコさま&アコさまが物心つく前に皇室を追われていたのだった。

天皇率いる戸忍忍者たちは、穏やかな生活をとり戻すため一致団結。皇太弟率いる戸破忍者の「紅白計画」を阻止するため、壮絶な印象操作合戦を行い、辛くも勝利する。しかし、追い詰められた皇太弟は「兄貴に、もう一度、ちゃんと仕事をしてほしかっただけなんだ」と、涙ながらに告白するのだった。

皇室がすっかり求心力を失い、天皇にも存在感が失われ、宮内庁も皇居も大幅に縮小、皇室典範も形骸化した時代に、新天皇に即位したヤスヒト天皇。彼は、即位した当初からもう、ニッポン国を象徴する自信を失っていた。

天皇は「もともと、近年の天皇は仕事をしすぎていた。伝統的な、静かで穏やかな生活に回帰しよう」と皇室の者たちに言い聞かせると、戸忍忍者を使ってますます世間から存在感を無くし、俗世との縁を絶った。そして、これに反対した皇太弟を追放したのだ。

「皇居にこもってばかりいる天皇に、社会復帰してほしい」と願う皇太弟は、同じく「シャッターに閉じこもってばかりで、たまにしか仕事をしない戸忍族に、もっと働いて欲しい」と願う戸破族と意気投合。無理矢理皇室ブームを引き起こすことで、ヤスヒト天皇に社会復帰させるきっかけを与え、この国を再び「象徴」させようとしたのだった。

皇太弟が「その忍者たちをまとめあげる手腕があれば、きっとまた象徴も務まる」と天皇の社会復帰に向けてエールを送ると、兄弟は涙ながらに和解。その数ヶ月後、仲睦まじく紅白を観戦する皇室関係者の姿は、各報道機関で大きく取り上げられるのだった。

文字数:1411

内容に関するアピール

国を象徴するということと、国民的なアイドルになるという事は
全く無関係で、別の話だとわかりつつ。

でも、国民の関心が得られない状態で、国を象徴しろと言われるのは、
当人にとっても、やはり虚しいような気がして。

今のまま天皇制を続けると、いつか、こういう事になるかもと思い書きました。

梗概ではアホばかりが際立ちましたが、実作では
「もう、象徴なんてやりたくない」と思うに至った、
ヤスヒトの心境も細かく描けたらと思います。

文字数:204

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