知らなくていい

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梗 概

知らなくていい

月曜日
太郎と次郎が、朝の食卓についている。三郎はどこかで幸せになっている。テレビは天皇の代替わりを告げている。
「今度の元号、なんだっけ?」
「まだ出ていない」
「誰が次の天皇?」
「まだ出ていない。どうせ兄さんはアイドルのおっかけぐらいしかしないんだし、なんの関係もないだろう」
「だけじゃない。メシも作っているし家の掃除もしている。ポチの散歩にも行っている」
「はいはい。スーパーのレジ打ちもしているね。えらいえらい」
太郎の作った朝食を食べ終わると、次郎は会社へ出勤すべく、上着を羽織ってネクタイを締めた。
火曜日
次郎は寝坊して慌てて飛び起きた。昨夜帰宅すると、太郎が出かけていた。またアイドルのなんちゃらだろうと思ったのだが、朝になってもまだ帰ってきていない。ついでにポチの姿もないようだ。しかし時間がない。次郎は急いで家を出た。
水曜日になっても木曜日になっても、太郎は帰ってこなかった。スマホは通じない。
金曜日
朝食用の菓子パンを前にして、心配で顔をしかめた次郎のスマホに、次代の天皇決まるというニュース速報が流れてきた。
「太郎じゃん」
土曜日
「ポチを連れて公園でおにぎりを食べようとしたら、手から転がり落ちてそれを追いかけていったらこうなったんだ」
太郎が次郎に説明をする。よく分からない。
よく分からないけれど、太郎の父親方の祖母の家系をずっと辿っていくと、どこかで天皇家とつながるらしい。ここ何代も、新しい天皇はそうやってどこからともなく見つけ出されている。
ふかふかの絨毯が敷かれた綺麗な部屋で、太郎がいつものスウェットを脱いで上等そうなスーツ姿でソファに座っている。その足もとでは、毛をつやつやさせたポチが大人しく控えていた。太郎のくせに。なにもできない癖に。
「兄さんには、ちょっと難しいんじゃないの」
次郎は言った。
「窮屈なの嫌いでしょ。兄さんは、なんでも自由に気楽にやるのが好きじゃないか。僕が代わってあげるよ」
太郎が目を丸くしたが、結局次郎はあれやこれやと言いくるめて交替を了承させた。
日曜日
太郎は自宅で一人朝食を食べていた。
『石が機嫌を損ねると空から仲間を呼び寄せるのでよろしくお願いしますね』
まさか、あのおにぎり形の石ころを、きちんと持っているのが仕事だなんて。
次郎はうまくやれているだろうか。
そう考えてから、大丈夫だろうと頭を振った。
太郎が心配することなどなにもない。なにしろ次郎は要領が良いのだから。

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