梗 概
天架ける星
舞台は銀河と銀河の間にある孤独な惑星。人々は豊かな土地と農産物を糧に不自由なく暮らしている。太陽の他に星は無く夜の世界は暗黒に包まれる。
主人公の少女と少年は科学学校に通う幼馴染み。少女は探究心が強く科学者に憧れ少年は安定を望み農家を継ごうとしている。少女は無鉄砲な性格で幼い頃命を落としかけたが少年に助けられたことで少年に恋心を抱いている。
二人は学校で世界の仕組みを学ぶ。この世界は球体で太陽はその周りを公転しておりその輝きは水素の核融合であることが知られていた。
夜空を望遠鏡で覗くと微かに光る渦巻きがあった。それは古代の壁画に描かれた神の住む世界にそっくりだった。伝説によればかつて神の世界から箱船が救済に来たというが少女は非科学的だとして信じなかった。少年は神のおかげでこの世界があるといい箱船の再来を信じていた。
あるとき少女は太陽が暗くなっているという噂を聞く。太陽が輝きを失っていけば世界は寒冷化し農作物が育たなくなってしまう。少年は太陽は永遠に世界を照らすと信じて疑わない。少女はそんなことはありえないと言って少年と言い争う。
少女が科学学校を主席で卒業するころ、世界初の太陽探査機が打ち上げられる。初めて太陽の裏側を見た科学者はそこに輝く球面ではなく平坦な機械の地面を発見する。太陽は何者かが作った世界を照らす照明装置だった。
少女は太陽の有人探査に名乗り出てその探求心の高さから飛行士に選ばれる。少年は太陽探査は神への冒涜であり辞めるように諭すが少女は考えを変えない。夕日に染まる浜辺で少年は少女の身が心配だと本心を伝え諦めてくれという。少女も少年への恋心を告白し感謝を伝える。だがこの世界の秘密を知りたいから行かせて欲しいと頼む。
探査船で太陽の裏側に着陸した少女が見たのは伝説の神の世界、すなわち彼方の銀河とそこから来る宇宙船の映像だった。
この惑星の正体は高度文明が発明した空間跳躍航法の中継地点であった。空間跳躍航法の座標には生命が宿る惑星の低エントロピー場が必要である。この世界は銀河間を移動するために意図的に生命を宿された惑星だった。太陽は惑星の生命を維持するための人工衛星でその水素は定期的に補給船が補充していたが、高度文明の滅亡により枯渇しようとしていた。映像は探査船を作れるほどに発達した文明が惑星上で誕生した場合に高度文明の存在を伝えるために用意されていたものだった。示された補給の周期はとうに過ぎていることがわかり皆が絶望する中、少女は離脱ぎりぎりまで諦めず救難信号ボタンを発見し押す。はたして遙かな銀河から無人の補給船が現れて水素が補充され太陽は輝きを取り戻す。高度文明は滅びたが補給船の人工知能が信号に応答したのだった。
補給船の人工知能は惑星での文明誕生を喜び現地人に銀河への旅の同行を認める。少女は立候補し少年に必ず帰ると約束して銀河へ旅立つ。
文字数:1199
内容に関するアピール
本作では究極の辺境の暮らしとして銀河間空間にある惑星を思い描きました。
周囲に何もない銀河間空間にある孤立した惑星と太陽。そこに暮らす主人公が世界の謎を解く物語です。
銀河の高度文明が発明した空間を瞬時に移動する跳躍航法には始点と終点の座標が必要で、その座標には生命を宿す惑星の低エントロピー場が必要という設定です。この理由により銀河中の生命がいる惑星同士は空間跳躍航法によって結ばれています。しかし銀河間を跳躍するには距離が遠すぎるため、その中継地点として高度文明がはるか昔に人工的に設置したのが本作の舞台となる惑星です。高度文明は銀河間空間を漂う浮遊惑星を銀河同士の中点に停止させ、人工太陽を付設し惑星を生命を宿す環境に改造しました。
実作では補給が止まり静かに死にゆく世界の保守性(少年)と、科学の力で死に抗おうとする世界の希望(少女)を宇宙の辺境を舞台に描きたいと思います。
文字数:392