梗 概
森に鳴くもの
先の未来、地球のどこか。
ネットやAIは失われ、バイオテクノロジー中心の歪な科学が残っていた。
ある森の深く、一人で生きる女性「わたし」がいる。
自給自足で穏やかに生きるわたしのまわりに、鳥の声が満ちている。
植物がもたらす力で農具が動き、自給自足を助けてくれる。
わたしは、誰も取りに来ることのない手紙をポストへ出し続けていた。
◇
時間はさかのぼり、その森のある村。
幼い主人公の「わたし」、男友達のユツキ、女友達のヒイナ。
三人は一緒に育った。
森の奥には「神の鳥」と言われる絶滅危惧の鳥がいた。
三人は、鳥の巣を大切に見守っていた。
わたしは都市で学び、失われていく動物を守るために『生体術』の研究者になった。それは、かつてバイオテクノロジーと言われていたものに近い何か。
ユツキも学ぶことを願ったが叶わなかった。
地元に帰り二人と再会する。ユツキとヒイナは恋愛関係になっていた。
その姿に嫉妬したわたしは、彼を好きだったことに気づく。
村には、生態収束工場――自然からエネルギーを搾取する工場――の開発の波が押し寄せていた。
ユツキはヒイナたちとともに鳥を守る反対運動していた。
開発会社が、巣に迫るように森を壊す様子を目の当たりにする。
ユツキは言う。「動物に効かず人間だけに苦痛を与える『霧毒』はつくれないか? ――ばらまけば誰も鳥のそばに来れない。あいつらを追い払うまででいい」
頷くわたしに、彼は続ける。
「伝説で、神の鳥は仇なすものを地獄の痛みで罰するとした。俺たちが、技術で伝説を再現するんだ」
甘い逢瀬の先で、わたしはその『霧毒』――かつて生物科学兵器と呼ばれた何か――を作りあげた。
喜ぶユツキに抱きしめられながら、わたしは満たされた。
それを森の周囲にばらまく小さなテロを彼と企む。
あくまでわずかな量で少しの間、脅すために開発者たちに罰を味わせるだけだ。
しかし決行日、わたしとともに潜伏したユツキは開発者に見つかり衝突。偶発的にすべての霧毒を爆散させてしまう。
開発者たちが激痛のなか失神していく。
防備していたわたしとユツキにも激痛が襲う。命も危ない。
ワクチンである『中和滴』は二本精製できていた。無意識のうちに自分に一本を打つ。
「これを早く!」ユツキは興奮し受け取る。
しかし、舞う鳥へ目を離した瞬間、彼は駆け出し、姿を消した。
鳥の声の先にいたのは、ヒイナに中和滴を打つユツキだった。
そのままユツキは倒れ、痛みにのたうちまわり絶命する。
呆然とするわたし。
森の奥へ逃げ出す背後で、村人たちの悲鳴とわたしを呼ぶヒイナの声がする。
人が住めなくなった村が残った。
霧毒が「半ば減じる」まで三十年。神の鳥は守られた。
◇
わたしは、償いのように手紙を出し続ける。彼の屍の上に花が咲く。
「わたしは自分を許せないのです。
あのとき、彼と二人きりで森の奥で生きられると喜んだ自分を」
孤独と引き換えに、わたしは制御を失った工場から鳥を守りつづける。
文字数:1200
内容に関するアピール
ただ一人の人間だけが生きる森、という辺境を考えました。
情景の静謐さと、感情の生々しさを同時に描ければと思います。
一部、手紙形式にしてフックにするかもしれません。
文字数:80