ゼロコネクションランド

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梗 概

ゼロコネクションランド

人は死ぬと土地になる。
〝意識〟の数理モデルが提唱された。が、わずかな数学者しか理解できない難解なものであった。
その頃、人類にネット空間の情報精神体になることを選択する者が現れ始めた。一般的な他の技術と同様、当初アーリーアダプターが先陣を切ったものの多くの人々は尻込みしていた。多数派は〝永遠の命〟がもたらすデメリットのほうに目を向けていた。自分がいつまでも〝自分〟以外の選択肢を持てない恐怖は、よほどのナルシストでもなければ受け入れがたかった。
だが、ある時、情報精神体の寿命は永遠ではないことが数学的に示される。情報精神体がある一定回数の演算を繰り返すと、〝意識〟の数理モデルの定義を必ず逸脱することが判明。この演算は、高度な思考をするほど消費が早いというものでもなく、ぼんやりしていても単純ループ分の演算を消費する。
これは現実世界を近似する為に便宜的に設けられたネット上の〝時間〟概念に換算しておよそ百年で、ネットへの移住は、現実に住むより寿命の上で若干お得、永遠の命を持たされる欠点もなく、肉体が持つ痛みや疲れなどがなくなるメリットを享受できる魅力的な選択肢となる。こうして、人類は大半がネットへの移住を終わらせた。
ネットでは、人はひとつのノードとなり、他のノードとコネクションを持つことで社会生活を営む。性別はなくなり、しかし人を愛することはできる。情報として溶け合い、混ざり合い、そしてまた二つに別れることで生殖も可能。
ネット上で〝死んだ〟人は生前の人との繋がりにより、ハブ的な役割を果たし、多くの繋がりを持った人は人でごった返す〝都会〟となり、繋がりの少ない人は〝田舎〟となる。
全く孤独に死んでゆく精神体もある。マイナンバーは情報精神体にも振られており、ネット上の〝政府〟によって最低限一本のコネクションがあるがそれだけだ。彼らは死後〝ワンコネクションランド〟と呼ばれる辺境である。
死ぬとマイナンバーとして管理する必要はなくなり、死者は〝センター〟と呼ばれる解放区に接続され、人はあらゆる死者を訪れることができる。つまり墓参である。ワンコネクションランドは、無縁仏である。
ワンコネクションランドばかりを旅する物好きな精神体があり、名をイノウと言った。
イノウは孤独で、死すればワンコネクションランドとなる予定だった。誰にも理解されない趣味としてワンコネクションランドの地図を作っていた。
だがイノウはノードと土地の総量は2の累乗になっておらずおかしいと考え、物理世界で言うダークマターに相当するゼロコネクションランドの存在に気づく。イノウはそこを追い求めるが接続が無いので辿り着けない。イノウは失意のうちに死ぬ。
 実は誰とも繋がらずに存在可能な者がいた。この物語の語り手である。語り手は余命僅かで語り手も死ぬ。語り手こそゼロコネクションランドである。人が百万里行ってもけして辿り着けないところ。

文字数:1200

内容に関するアピール

辺境でSFという課題を聞いた瞬間、宇宙ものが多発することを予想しまずはそれを避けようという心のブレーキが働きました。
さて、じゃあどうするか。
初作でSNSものをやりましたが、やはりこれが私の得意分野のようで、そしてネタとしては得意分野でも、人と人が繋がるというのは不得意分野で友達が少ない人生を送ってきました。
人がたくさんいるところが都会なら、SNSになぞらえれば人とたくさん繋がっているアカウントは都会だろうという考え方をしたときに、本作のアイディアは降りてきました。百万人もフォロワーがいるようなところは大都会で、私などはド田舎に違いない。
しかし、土地と言うのは動かないものなので、死者こそ土地としてはどうか、と考えたのが本作です。辺境の地わたしへようこそ。

文字数:333

課題提出者一覧