梗 概
シグナル・アポイントメント
最終戦争後の世界。生き残った人類は地球環境が回復するまでシェルターで長い眠りにつくことに。
地球環境が回復するのには何千年も掛かる。しかし主人公ハナはたった200年しか経っていない世界で目覚めてしまう。状況を飲み込めないままハナはふと隣を見やると中身が空になった冷凍ポッドがある。ハナは思い出す。ポッドには親友のミヤコが入っているはずだった。冷凍睡眠に入る前、二人は指切りをし、何が起ころうとも次の世界で再会する。そう約束した。しかしハナは一人置き去りにされている。
ほどなく人類を管理するマザーAIなるものから通信が入る。AIは来るべき文明再興の日のため、冷凍睡眠中の人類を守っており、発電所などのインフラ維持も行っている。AIは語る。ミヤコの冷凍睡眠が突如解除され、目覚めた彼女は思い悩んだ様子で外の世界へ行ってしまったと。
絶滅寸前の人類にとってその構成員が失われるのは大きな損失である。ミヤコを連れ戻すため追跡ドローンを送ったが音沙汰はない。AIはあらゆる方法を検討し、その中でもっとも成功確率が高かったのが親友であるハナに彼女を追跡させることだった。ハナもその提案をのむ。
かくして支援ドローン「ジェス」と共に崩壊した世界を旅するハナ。外界は吹雪と磁気嵐に閉ざされ、倒壊したビルや地割れが行く手を阻む。その途中、(何者かに?)破壊された通信基地を発見。基地を復旧すれば何かわかるかもしれないと故障を直しオンラインに。
そこでハナは衝撃の真実を聞かされる。実はハナが持っている記憶は偽の記憶であり、初めから通信基地を直させるためにAIは『親友のミヤコを助けに行く』という嘘の物語を与えていた。
単にミッションを与えただけだと人間は困難にぶつかった場合、諦めて失敗する確率が高かった。しかし嘘の物語を与えて動機付けを行うと成功する確率が有意に上がる。AIはそれをシグナル・アポイントメント(会う約束)効果と呼んでおり、今回もそれは証明された。
AIの目的は文明の存続であり人類の存続ではない。自分達がいれば(※別にクローンとかも作れるし?)それは達成される。ジェスは役目を終えたハナを処分しにかかる。致命傷を負ったハナが止めを刺されそうになったとき、人影が現れ、ジェスを破壊。
人影はミヤコだった。ミヤコはハナと同様、嘘の物語(どこどこの発電所を直さないとみんな死んじゃいます的な?)を与えられた前任者だった。ミヤコも真実を知っているはずだが、AIの言葉をねじ曲げて解釈しており、いくらカバーストーリーだと説明しても信じない。AIを破壊すれば仲間は解放される!と思い込んでおり、AIにハッキング攻撃を仕掛けるが、駆けつけた基地の防衛システムと相打ちに。
AIはそれすらも評価する。人間の予測不可能性は素晴らしい!
そして性懲りもなく別の人間に嘘の物語を与えて、ハッキング攻撃されたシェルターを直しに行かせる。
その裏で致命傷を負ったはずのハナが起き上がる。ハナはミヤコとの日々が偽の記憶だとは信じない。何よりミヤコは私のことを助けたじゃないか。ハナはAIに復讐を誓いシェルターへと歩き始めた。
文字数:1288
内容に関するアピール
ポストアポカリプスの世界は中央という概念が失われ、従って全てが辺境となっているような場所だと考えています。当初はそういう世界をぶらぶらと旅するお話を書こうとしましたが、オチを付けられそうになく、人類管理AIを出してしまいました。
人類を管理し、その後継を自称するAIにしても、都市機能が集約されたシェルターを維持するためには、通信基地や発電所といった郊外にあるインフラを直しにいかなくてはならない。そして、それを自分達より下位の存在であると見做した人類に外注しているという皮肉。
しかし物語を皮肉と諦観で終わらせたくなかったので、陰謀論?思考で逆にAIの思い通りにならないというオチを書きました。
文字数:296