ヤドリ村の怪

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梗 概

ヤドリ村の怪

 近未来の日本。「ヤドリ村は疲れを癒す。思い続ければ召喚される。でも、そこから出られない」そんな都市伝説が囁かれている。

 エイラは一人旅をしている。山道を歩いていると昭和の頃の村のような集落が現れて驚く。それは旅を始める数日前から毎晩見ている夢の風景だった。
 ここは噂のヤドリ村? 疲れて癒しを求めていたエイラは実在するのなら行きたいと思って旅をしている。私は召喚されたの? エイラは集落に入る。

 民宿があった。エイラは民宿の主人の話を聞く。「この村は農作業と猟で自給自足の生活をしている。他の土地との繋がりはほとんどない。ときおり、あんたのような旅人がやってくる。何もない村だけど、ゆっくり疲れを癒すといい」

 翌日、エイラは何人かの住人と言葉を交わした。なぜかみんな同じような顔をしている。恋人のアスラには毎日メールしていた。しかし、ここは圏外。エイラはこの村を出ることにする。宿の主人にあいさつしてエイラは歩き出す。けれど、村から出られない。一本道なのにいつ間にか村に戻ってしまう。日が暮れてきた。しかたなくエイラは民宿に向かう。エイラが戻ってくるのを知っていたかのように宿の主人は食事を作って出迎えてくれた。エイラはしだいに村の暮らしに馴染んで疲れていた心と躰も癒されていった。

 村の中心に住人たちがムロと呼ぶ螺旋状にねじれた構造物が立っている。夜になると住人たちはムロを囲んで唄うように節をつけて言う。「オヤサマオメザメクダサイ」 
 民宿の主人はエイラに言う。「ムロの中で親様が眠っている。ずっと昔、親様がヤドリ村を作った。親様はもうすぐお目覚めになる。あんたは、親様の器に選ばれた。親様の思念の夢を見て招かれた。親様が世界を支配する」
 エイラは操られるようにムロに近づいて触れる。すると、皮膚が透けてムロの中で眠っている親様の意識が血管の中を光りながら流れていく。エイラは親様の意識が宿る器になる。「立派な器だ。成り損ねた俺たちとは違う」宿の主人がつぶやく。
 エイラは脱出方法を知っている器になった人にアスラへのメモを託す。
 
 エイラからの連絡が途絶えてアスラは心配している。
 アスラは政府関係の友人から極秘情報を入手する。
   2150年 日本政府主導で異次元干渉探査が始まる。
   2152年 異次元に棲息しているXと偶発的に接触。Xは東北の山間に異空間を作り出す。
         Xは実体のない意識体。意識を入れる器をこちらの世界に求める。
   2153年 異空間を封鎖。立ち入り禁止地区に指定。

 アスラは危惧する。もしかしたらエイラはこの禁止地区に。アスラはそこに行こうとする。
   
 奇妙な身元不明者が保護される。皮膚は透けて血管には光る液体が流れている。「ヤドリ、オヤサマ、ニゲテキタ」うわ言のように繰り返す。メモを持っていた。「アスラ、ここにはこないで! ヤドリはキケン!」

文字数:1200

内容に関するアピール

 異次元空間に作られた辺境の話です。実作では異次元辺境の暮らしぶりが分かるように、もっと細かく書き込みたいと思います。そこで生活すれば心身は癒されるけれど、最終的には別なものに変貌してしまう恐怖を、クトゥルー神話的な不気味さが味わえるように仕上げたいと思います。

文字数:131

課題提出者一覧