砂漠の足跡は一瞬に、薬指の噛み痕は永遠に

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梗 概

砂漠の足跡は一瞬に、薬指の噛み痕は永遠に

舞台は地球から数年で移動できる砂漠の惑星。砂はこの星特有の鉱物でそれを利用した効率のいい発電方法が確立されている。砂力発電と称されるそれのために各勢力が競うように開拓を行っている。砂嵐や地形変動のために砂漠の移動も発電所建設も難航している。地球に似た大気中から飲み水を精製する設備がある。微生物がいないので死体は腐敗しない。現在は第二次開拓期と呼ばれ第一次開拓期から百年の隔たりがある。地球での大戦を期にこの惑星との交信が途絶えたためその空白期間に何が起きたかは伝わっていない。第一次開拓期の施設は現存するが解錠できない。

主人公は砂の中から発見された男性型アンドロイド。第一次開拓期の技術で作られた戦闘用の機体であり左手薬指に噛み痕のような傷がある。記憶は全て失っているが人格と知性を備えている。主人公を発見したのは砂漠に放置された死体を回収する葬送屋と呼ばれる集団であり集めた死体はとある企業が提供する宇宙船に運ぶ。彼らは襲撃されることもあるため主人公を護衛として使うことに決める。主人公には砂力発電によるバッテリーが搭載されており砂から充電することができる。

主人公は葬送屋と旅をするうちに開拓者の中で一番規模の大きいグループに誘拐される。彼らは主人公の傷を知っており第一次開拓期の研究施設を主人公の薬指に残る歯形で解錠する。その施設には砂漠を安全に移動するルートや発電施設建設のためのマップがあると思われた。

しかしそこにあったのは主人公にしか解読できないデータであり単なる記憶だった。かつて主人公は薬指の傷を鍵に設定し、流出を防ぐために己の記憶を全てここに保存した。

かつて主人公はとある企業によって製作されその企業が雇った傭兵団に所属していた。仲間は傭兵をするしか身を立てる術の無い者たちだった。その中でも寡黙な青年と主人公は親しくなる。彼は友人を失うことを何よりも恐れていた。

しかし過酷な環境での戦闘により仲間は減っていく。そんな折青年は消えないはずの死体が消えていることに気付く。その理由を探った青年と主人公は雇い主である企業が死体を回収していることを知る。実はこの惑星の砂は死体を伝導体としたときに最も発電効率が良くなるのだった。

死体発電と言うべきその方法に青年は激怒し一人で死体発電所を破壊することを決める。青年は主人公だけが自分のことを覚えていればいいと言い主人公の指に噛み痕を残して去る。惑星上の施設は破壊されたが青年も殺された。

記憶を思い出した主人公は葬送屋の協力を得て死体と共に宇宙船に乗り込む。そうして企業が秘密裏に保持していた死体発電所を暴き破壊する。

埋葬できない惑星の死体は地球へ持ち帰るという惑星法が生まれ、葬送屋が死体を運ぶ先が地球行きの宇宙船になった。元の惑星に戻った主人公は葬送屋と共に業務を遂行する日々を送る。薬指の傷と青年との思い出を抱えて主人公は生き続ける。

文字数:1199

内容に関するアピール

一番描きたかったのは「婚約指輪の代わりに噛み痕を持つアンドロイド」です。この主人公と青年の間にある感情が結婚するパートナーのようなものだと断定するわけではありませんが、アンドロイドの身体に痕跡を残して去る人間の図がいいなあと思い取り入れました。男性同士なのは趣味であり、女性キャラだけの話を書いたばかりだったので男性キャラを書きたいなと思ったからでもあります。

ただ話の核となるのは第一次開拓期の終焉で、これは「辺境」という課題を考慮したときに辺境にまつわる謎を追う筋書きのほうが適切だと判断したからです。ただ辺境ならではの画の美しさを追求したい気持ちもあり、葬送屋や死体発電所などの半ば無理やりな設定を盛り込みました。

文字数:309

課題提出者一覧