梗 概
殻繭
大災禍の前に人間が作り出した、二足獣型の狩猟機械が原野を爆走していた。この土地に<繭>から人間が産み落とされようとしている。だが、地上にはいまだ高濃度の妖塵が残留していて、人間にとって毒である。妖塵に落ちた人間は、全身がただれて、血を噴き出して死ぬのだ。その人間のことを救わなければならない、と狩猟機械は強く思っていた。天啓を受けたのだ。爆走する狩猟機械は<繭>から落ちてくる人間の姿を見た。狩猟機械は人間を、嚢糸を射出して、外気に触れぬように卵嚢に収めた。人間の少女だった。少女は「来てくれると思った」と笑う。
天を見上げると、はるか上空に蜘蛛の巣のように入り組んだ網とそこからぶら下がる<繭>の姿がはっきりと見える。
地球は巨大な<繭>に包まれていた。
<繭人>は、いつ終わるともわからない夢を見ている。
「みり愛に会わないといけないんだ」
少女の名を陽奈子という。
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みり愛が、下界で目を覚ました。祭壇には狩猟機械が集り、狩猟した鹿を供物として捧げていた。供物を囲み、狩猟機械たちは踊り続ける。しばらくすると天から無数の糸が降りてきて、肉を包み込み、<繭>へと持ち帰っていく。皆が<繭>を見上げ、祈りを捧げた。祈りが終わると、みり愛は<繭>と接続して、最新の全球シミュレーション結果をダウンロードして、予言を始めた。
<繭>は、供物(DNA)を捧げられることで、プログラムの書き換えやデータの更新が行われる。<繭>は、地球から得られた供物によって、現在の状態を更新し、全球シミュレーションを行う。<繭>の中に住む<繭人>は、仮想都市に移り住み、地球が人類にとって生存可能な時を待ち続けていた。そのシミュレーション出力を神託として巫女は狩猟機械に伝え、その予測がかなり正確であることから、彼らに神の遣いとあがめられている。
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陽奈子は、<繭人>の作る仮想都市を破壊するために、地上へ降り立った反政府団体の一人だった。また、<繭人>の見る夢の中では陽奈子とみり愛は同じ予備校に通う友達であった。陽奈子とみり愛はずっと一緒に居たいと思っていたが、二人の思想は相容れない。とりわけ、地球の汚染状況を確認するために、被検体として、人を繭から落とすのが陽奈子は許せなかった。一方でみり愛は妖塵への耐性があり、巫女に使命感を感じていた。陽奈子含む反政府団体は、汚染された地球に降りて、廃墟となった軌道エレベーターに向かう。反政府団体は以前より、下界に降りて、<繭>が演算に用いる供物に仕掛けを施し、<繭>の自己修復プログラムに異常を発生させていた。彼らは<繭>を破壊した。破壊の数舜前、みり愛と陽奈子は仮想都市の教室で再会する。
「ありがとう、あなたと友達で居れたこと、楽しかったよ」
陽奈子はそう言って、銃を構えた。
文字数:1194
内容に関するアピール
今回のテーマを受けて、人類が神として崇められる存在になった世界線の話を書こうと考えました。
モチーフは養蚕の神話で、オシラサマという蚕の神と東北に住むイタコです。狩猟機械が少女を救うのは、神話で馬が少女を救ったのに懸けています。(馬娘婚姻譚)
<繭>のシミュレーションする仮想都市に住むことを嫌がる人々が、仮想都市を破壊する、という話になるはずですが……
参考文献
・篠田知和基「世界昆虫神話」 八坂書房
・李燕 「蚕神説話に関する中日比較研究-「蚕女」言動を中心に-」 駿河台大学論叢31
・萩谷 昌己、横森 貴「DNAコンピュータ」 培風館
・DNAにデジタルデータを保存する方法 <2021.01.21閲覧>
https://www.ted.com/talks/dina_zielinski_how_we_can_store_digital_data_in_dna/transcr
文字数:379
翼竜は空を飛ばない
SF創作講座事務局よりお知らせ(2021.10.20)
本作品は公募新人賞への応募のため、公開を停止しております。
文字数:56