マスクド・クラウズ

印刷

梗 概

マスクド・クラウズ

アバターによるコミュニケーション、PAパーソナルアシスタントが一般化された時代。PAはイヤフォン型デバイスで脳と接続して思考や記憶を読み取り自律的に応対する。八雲タケル(17)は、自ら開発したPA「ペルソナ」の統計データに違和感を持った。利用者の睡眠中に大量のデータが転送されている。

数日後、品川に超巨大怪獣が現れた。緊急速報は触手を振りビルを薙ぎ倒す怪獣を映す。対策本部は縄の絡む形状から怪獣を標柱しめばしらと呼称。避難指示を出し祈祷討伐隊を投入するが歯が立たない。標柱は北西に進路をとり極めて遅い速度で渋谷方面へ向かう。

窓を開けタケルが怪獣を見た瞬間、PAが不正アクセスを検知。視界が白熱し白いボディスーツと仮面が装着された。「向かって!」仮面から響く声に操られ人間には不可能な跳躍で怪獣の目前に至る。「ガード!」咄嗟に構えた腕は触手を止めた。「思いっきりパンチ!」放った拳が浸透し触手が爆散する。軋むような声を発し怪獣は消えた。

首相官邸に招かれるタケル。「ようこそボクの城へ」出迎えた内閣総理大臣、妻籠つまごめミコトは16歳の少女だ。成人年齢引き下げと公職選挙法の大胆な改正により憲政史上初のボクっ娘総理が誕生した。政府のみが知るデバイスのバックドアを明かすミコト。人々の睡眠中、未使用の脳リソースを用いる研究中の事故で封印怪獣を逃したのだ。

怪獣という超自然災害は増加している。「あれはネームドでね。昨今の神職不足から古式で鎮めるのは厳しくなったんだ」封印とは即ち祈り。世界シェアトップのペルソナ経由で脳リソースを集め神職に注入する。失敗は膨大なリソースを受けきれなかった為だ。「数学の天才。キミの頭脳ならリソースを捌ききれる」

怪獣のお守りなんて──言いかけあの変身はとの問いにミコトは頷く。戦装束は彼女の霊体。怪獣実体化の研究が霊体転送と顕現を可能とした。合体変身、そしてリソースを注ぎ戦装束の武人の力とする。祈祷討伐隊は怪獣を祓い滅するが、武人は力を抑え封じるのだ。

翌日深夜。五反田を蹂躙した標柱は霊体化して消える。指向性を持たないリソースを祈りに変えねば効き目は薄い。助けた子供を抱いたタケルはミコトに言う。「皆に祈って貰えないのか」発案は実行に移された。戦闘を配信し世界から祈りを集めるのだ。

怪獣は饗応に応える。進路上の科博自然教育園に神代かみしろを設け、舞いと相撲を奉納し酒を振る舞い宴を張る。討伐隊が動員されたが、怪獣被災者や遺族も加わり祈り手は千人を超えた。

ついに標柱が現れた。ミコトを纏ったタケルの戦いが配信され、PAから祈りの力が流入する。標柱は結束を解き八本の縄で襲いかかる。祈りの打撃は標柱を徐々に鎮め、討伐隊の攻撃ヘリが聖酒を散布し足止めする。標柱はついに一振りの剣に姿を変えた。日本最古かつ最強の超自然災害、ヤマタノオロチはこの地に封印された。

文字数:1200

内容に関するアピール

スサノオのヤマタノオロチ退治を変身ヒーローの怪獣戦で再現しました。神話のスサノオはオロチの生贄クシナダヒメを櫛に変え、頭に挿して勝利します。ミコトがタケルの仮面とボディスーツに変身するのはその関係性ゆえのものです。

この世界の怪獣は超自然的な災害ですが悪とはかぎりません。守護神として振る舞うものも多いのです。また、規模の小さいものは祓って滅却も可能ですが、古く力のあるものは祀って鎮めるしかありません。長い歴史を有する国ほどこうした封印怪獣を多く抱え、その対処法も整備されています。SCP財団のように超自然オブジェクトを収容する組織も存在しますが、日本や英国のような霊的大国には及びません。

実作では政府の対応と人々の反応、なぜミコトが首相になったのかその背景、PAの浸透した社会の姿なども盛り込みたいと思っています。天才だが動機を持たない主人公が、ヒーローとして成長し自覚を得る姿を描きます。

文字数:396

課題提出者一覧