巨人の肩凝り

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梗 概

巨人の肩凝り

 世界の西の果てで巨人アトラスが天空を支えていた。天空は非常に重く、何百年も同じ姿勢を強いられたため、アトラスの首と肩は修復不可能なほど凝り固まっていた。アトラスは神に会うたびに体の不調を訴えた。彼が天空を降ろせば天の星々は地に落ちて人類文明は壊滅してしまう。アトラスが身体の苦痛に耐えかねて身じろぎするだけで、地上の人々は凶兆だと噂し震えた。事態を見かねた大神ゼウスは他の神と会議の結果、アトラスの体をほぐすことを決定する。しかし、天空は彼以外が支えるには重すぎて、どの神も一時的にせよ役目を引き受けようとはしなかった。神々はアトラスが天空を支えた状態で、彼の身体をほぐすことを決めた。

 まずゼウスはアトラスにストレッチを提案する。彼は天空を両手に持ち、腕をあげて背筋を伸ばすが、空が傾き雲が一所に集まったことで豪雨が引き起こされた。沿岸や平野にあるすべての都市が流され、世界は水浸しになり、箱舟に乗ったわずかな人々のみが生き残った。世界の惨状を見たゼウスはストレッチを中止させる。アトラスは身体を動かすだけで鋭い痛みが背中を襲ったため中止に喜んだ。

 次に医学の神アスクレピオスが肩をもむが、凝りに凝った彼の肩にアスクレピオスの指は一切沈みこまない。鍛冶の神へパイトスがアスクレピオスに代わり、アトラスの肩を赤熱した槌で叩くが、槌は岩を思わせるその肩に弾かれ宙を舞った。槌の熱と落下の衝撃が大地に伝わり、地震と火山噴火を引き起こす。洪水後、文明は再建され人類は新たな繁栄を謳歌していた。しかし、この地震と噴火により多くの都市は大地の亀裂や溶岩流の中に消え、空を火山灰が覆いつくし、人々は飢えと渇きに苦しんだ。アトラスは「少し効いた気がする」と、より強い力で叩かれることを望むが、ゼウスはこれ以上の災害を恐れ拒絶した。

 業を煮やしたアルテミスが鍼治療として彼の背を弓で何度も射るが、矢は彼の鉄板のような背に当たると、明後日の方向に飛んでいく。弾かれた矢により人々が突然死を遂げ、疫病として認識された。ゼウスが雷を落とし、電気ショックでアトラスの僧帽筋を和らげようとするが、アトラスは微動だにしない。当たり損ねた雷が山々の茸の原木に落ち、落雷の衝撃波が菌糸を刺激し、茸の収穫量が増加した。ゼウスがアトラスに感想を求めたが、アトラスは何かされたことにすら気づいていなかった。

 神々はこの難題の解決を諦めそうになるが、その頃、英雄ペルセウスがメドゥーサを討ち取ったという報が駆け回り、ゼウスはメドゥーサの首を使ってアトラスを石にすることを思いつく。ゼウスはペルセウスをアトラスのいる地へと誘導し、アトラスとペルセウスとの諍いを起こさせ、アトラスは石と化す。天空は安定し、石と化したアトラスは年月を経て山となった。アトラスはまだ体の痛みに苦しみ、木々や動物に身振り手振りで訴え、これが山鳴りを起こしているという。

 

文字数:1202

内容に関するアピール

ギリシア神話の天空を支える巨人アトラスを題材にとって、彼の肩凝りの改善を神々が図る姿と、それの余波で人々が災害に苦しむ姿を書きました。

神話、特にギリシア神話は、神々の馬鹿馬鹿しい騒動により、人々に理不尽な災難が降りかかる特色を持っているので、神々の馬鹿馬鹿しい騒動と人々にふりかかる災難を交互に書くことで神話らしさを前面に押し出すつもりです。

参考文献

『ギリシア神話(上)(下)』呉茂一,新潮社,1979年

『落雷でシイタケの収穫2倍に 日本工大が言い伝え検証』MONO TRENDY パラビジネスSelect,2020年1月30日(WEB記事ですが、当サイトでリンクを貼ってよいものか分からなかったので、URLは省略させていただきます)

文字数:316

課題提出者一覧