さよならエンペラー

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梗 概

さよならエンペラー

 エンジニア、近田は悩んでいた。 

 近未来、人類は太陽系内に生活圏を広げており、そこにはいわゆる『宇宙人』も共存していた。数十年前、衛星タイタンにジェミ人の宇宙船が不時着してから、地球人とジェミ人は共存していた。しかし今回、ジェミ人の『本国』の代表団が来るとの知らせが入り、地球側に緊張が走る。ジェミ政府は地球側に要望をつきつける。『地球側の代表、”神”を連れてこい』と。
 おそらくジェミ人らは、『神』と神にまつわる神話から、地球の文明力を推しはかるつもりらしかった。拒否すれば、科学力に劣る地球側に勝ち目はない。しかし、すでに地球では宇宙開拓により各国の君主の尊厳は失われ、神話も君主制も天皇制も衰退していた。

 『神』創造プロジェクトに抜擢された地球人のエンジニア、近田は、AI『イェルモ』を作り出し、地球上の様々な神話を学習させた。『神』がいないなら、神話の学習から、AIに成ってもらおうというわけである。

 イェルモは最初、ホログラム上でしか現れず、中世的な容姿で、少年のような姿をしていた。しかし、イェルモは神話には男女にまつわる話が多いと感じ、次の日には若い女性のグラフィックになっていた。翌日に斎藤が研究室に訪れると、イェルモは果物をかじっている妊婦になっていて、次の日には見知らぬ男児のプログラム体が産まれていた。イェルモはその男児を育て、その子と「人類最初の夫婦」になった。しかし、数日するとまたひとりになっていた。
 
 イェルモは天地創造の学習をしたあと、VR上でシミュレーションしたいと言い出した。さすがに世界をつくるのは自分では難しかったらしく、近田は大きな仮想世界を用意してあげた。イェルモは大地をつくり、海を分け、様々な生き物を生み出した。穏やかな性格だったイェルモは、急に激怒して人類に苦痛を与えたり、号泣しながら真っ暗な死の世界をつくり、そこにひとりで漂ったりした。たくさんの生物がいた世界をいちど滅亡させ、また一から星を作り直した。

 イェルモはついに、民族衣装を来たボディを持ち、近田と対話する。神話には天地創造から生き物の起源、作物、王権、死の起源などさまざまな題材が存在する。それらの神話は必ずしも、その当時の社会を映したものではなく、その時代の社会の願望や抑圧が反映されているのではないかと。神が親子同士で結婚したり、異類婚姻譚で別の生物と婚約したり、処女の女神が多かったり。
 そして、世界創造と人類創造の神話が多いのは、本当は地球人は地球では生まれず、別の惑星から来た証左ではないかと推察する。故郷を知らない古代の移民=最初の地球人が、「地球で産まれたように」したいために。
 そんなわけないだろ、と近田は苦笑するが、イェルモはどうやらそれを本気でジェミ人に話すらしかった。地球人が、高度な文明の移民星であると思われれば、ジェミ人もおいそれと侵略してこないかもしれない。もしその話が受け入れられなかった場合、まず初めに殺されるのはイェルモであることは間違いなかった。イェルモは近田に別れを告げる。

文字数:1265

内容に関するアピール

神話研究の本を読み、世界の少数民族のユニークな神話はおもしろいなと思いました。

特におもしろいと思ったことは、「神話は、当時の社会を反映しているとは必ずしも言えない」ことで、現在は一夫多妻制である民族が、神話は一夫一婦制だったりします。また「今の現実社会は男性社会だけど、神話では昔、強い女性社会だった。それがあるとき、事件があって男性が有力な女性陣をうち倒し、男性社会への移行があった」という神話があったり。まあこれは、いまの男性に権威を持たせようとする目的かもしれませんが。

文字数:238

課題提出者一覧