梗 概
骨を折る 君は英雄
昔々、骨をとても大切にする人々が住む国があった。
その国の伝説では、神様が宝石から作った骨格に、土くれが詰まって人ができたという。それゆえ骨、特に頭蓋骨には価値がある。山の上に建つ神殿の宝物殿には、最初の人間の頭蓋骨が安置され、『生み出す力』がある、と崇拝されている。
日々の生活でも人の骨は、薬や貨幣、また装身具や建具としても使われ、大切にされていた。
神殿のふもとの村に、骨が曲がった少女が住んでいた。彼女は書記で、村の記録を司っていた。ある日、村で一番体格の良い男が殺される。死体はふもとの村の自宅にあり、頭蓋骨が傷ついていた。また、骨ごといくつかの部分に切り取られている。
少女は、死体から骨を取り出す『骨磨き』の係の作業を記録する。男の立派な骨格は、本来なら『良い骨』だった。しかし良い骨は、傷つけられると『滅ぼす力』を持つ『悪い骨』になるから、骨磨きは念入りに骨を磨き浄める。悪い骨は家族に返されず神殿に納められる。
殺された男の骨は息子と愛人が受け継ぐはずだった。犯人は骨という財産を受け継ぐ家族にも恨みがあったので骨を折ったのだと、村の人々は噂した。
男の息子である少年と少女は幼馴染だった。書記の少女は、悪い骨だと村で忌み嫌われている。特に死んだ男は少女への蔑みを隠さなかった。しかし少年はとても優しく、少女のために何でもすると言うこともあった。しかし少女は、何も求めなかった。
少女は、殺人が起きた家にいたはずの少年が物音を聞かなかったということに疑いを持ち、少年に問う。骨が醜い者を蔑むこの村に怒り、その象徴として、良い骨を持つ父を殺したのでは? つまり、この村に居場所がない私のために、父を殺してくれたのでは?
少年は否定せず、「それはお前のためになるのか?」と言った。
事件当夜少年は家を空けており、父を殺していない。神殿で、聖なる頭蓋骨に土くれをなすりつけ、少女への贈り物を願っていたのだ。頭蓋骨は大きな棍棒を生み出したが、少年には意味が解らなかった。
少年は、村に居場所がない少女の苦しみに初めて気づき、いっそ自分が父を殺していればよかったと思う。
少年は、父が骨を切られたのは、重い死体を持ち運ぶためだと考え、骨磨きに尋ねる。すると骨磨きに襲われる。骨磨きが父を殺したのだ。父の美しい骨が欲しい骨磨きは骨を折って父を殺した。良い骨は財産なので家族に返すが、悪い骨は縁起が悪いため神殿に納める。その時に盗んだのだ。
少年は、聖なる頭蓋骨が生み出した棍棒で、父の頭蓋骨を砕いた骨磨きの頭蓋骨を砕いて殺す。血みどろのまま少女のもとに行き、自分が父も殺したと告白する。そして、自分に期待を懸ける少女のため、聖なる頭蓋骨を砕くため山を登る。この世界で一番良い骨である頭蓋骨を砕き悪い骨にして、村と、そこにはびこる憎しみを滅ぼすのだ。
少女は、少年が持つ灯りが少しずつ山を登っていくのを見ながら、少年がやることを全て余すところなく記録し、後世に残すことを誓う。
文字数:1227
内容に関するアピール
少年が神話の英雄、少女がその神話を作る人、というイメージで作りました。
オイディプスしかり、ルーク・スカイウォーカーしかり、英雄といえば父殺し、父殺しといえば英雄ですが、少年は少女の期待に応えて、父殺しという英雄の仕事を背負います。それは父殺しの頭蓋骨を砕き、父殺しに成り代わることで行われます。
少年と少女の淡いラブストーリーになっていればよいなと思います。
文字数:178