わらう魔女

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梗 概

わらう魔女

バリ島には、農業のかたわら観光客向けに島の伝統劇を演じる村がある。
「バロン劇」、もしくは「チャロンアラン劇」と呼ばれるそれは、島の説話やインド神話の叙事詩をモチーフにしたストーリーを、ガムランの音色とともに演じるものだ。
ある日、脳医学の国際研究チームが村を訪れる。バリ島の劇が観客の脳に与える影響を調べたいという。特に、登場人物のひとりである魔女ランダに関心を持っていると、リーダーの脳科学者・シャオリンは語った。
魔女ランダは、伝統劇に登場するさまざまな神のうちでもっとも危険な性格を持つとされ、演じる役者には魔女が持つ妖力に耐えられる特別な力が要るとまで言われる。
「バリでもっとも優れたランダの演じ手がこの村にいると聞いたものですから」
シャオリンが紹介されたその演じ手は、異例なことに女性・ラクシャミーだった。普通は、壮年の男性が選ばれるのだが。
「好奇心で魔女に近づくんじゃない。喰われるよ」
彼女の忠告を真剣に聞こうとするシャオリンだったが、他の研究員が見せた魔女を軽んじる態度にラクシャミーが腹を立て、その場はお開きとなってしまった。
その晩、シャオリンとラクシャミーは盛り場のバーで再会する。偶然ではない。シャオリンがラクシャミーと話すために行きつけの店を聞きだしたのだ。
「助けてほしい、貴女はそんな顔をしているわ」
見透かすようなシャオリンの言葉に、ラクシャミーは苛立つ。
「あんた、魔女に喰われたいの?」
バイセクシャルであるラクシャミーが半ば冗談で仕掛けた挑発に、シャオリンは乗ってきた。そのまま、二人は一夜を共にする。
シャオリンは自分が抱えているものを語る。両親を自己で失った絶望を脳医学に救われた過去を。
ほだされたラクシャミーは、研究に協力することを約束してしまう。
研究の結果、ラクシャミーが演じる魔女ランダの演技は、ミラーニューロンのはたらきを増幅させる装置を着けた統合失調患者の脳を活性化させ、症状を緩和する効力が認められた。善であり悪でもある、両義性持つ魔女の身振りが、思想や行動、感情をひとつにまとめられない統合失調の患者に及ぼしたのだ。
自分の演技で救われたひとがいると知り、研究に積極的になるラクシャミー。
しかし、ひと月ほど経つと、症状が改善した者たちに暴力的なふるまいがあらわれはじめる。
魔女ランダの身振りは患者たちを快方に向かわせただけでなく、負の力も及ぼしていたのだ。両義的な身振りがもたらす必然と言えた。
責任を感じたラクシャミーは、シャオリンに患者たちを集め自分の上演を見せるよう頼む。
患者の前で自らが死ねば、ランダの影響は消えるとわかっていた。
ラクシャミーは最高のランダを演じ、死ぬ。シャオリンは彼女の葬儀で涙を流す。

文字数:1123

内容に関するアピール

百合です。よろしくお願いいたします。

文字数:18

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