梗 概
ミソギ
神秘の島国ナカツクニ。
かつて栄えたその国には、人の過ちや罪を消し去るミソギという秘術があったという。
国ははるか昔に滅びたが、その土地には今でも、ミソギの秘術が細々と伝わっているといわれていた。
ミソギの秘術を求めて、一人の若者が、かつてナカツクニがあった土地を訪れる。
彼は、人間関係や仕事がうまくいかないことに悩み、鬱屈をためていた。ミソギの秘術によって過去の失敗を消し、人生を軌道修正したいと望んでいた。
若者は、ミソギの方法を知るという土地の古老を探し当てて、訪ねる。古老はミソギなど求めるのはやめろと忠告するが、若者は聞き入れない。
古老からミソギの方法を聞き出した若者は、教わった洞窟の中へ潜り、地下を流れる川にたどり着く。
かつて存在したナカツクニでは、過ちや罪はケガレと呼ばれていたという。ケガレを洗い流すことをミソギといい、秘術とはこの川で水浴することだった。
若者は秘術の正体にがっかりするが、試しに川で水浴すると、悩みや鬱屈が消えて、生まれ変わったように晴れやかな気持ちになった。
二十年後。ミソギの秘術を求めて、一人の男が、かつてナカツクニがあった土地を訪れる。
男は長年にわたり家庭をおろそかにしたことで、妻子に去られていた。ミソギの秘術によって妻子に対する過ちを消し、後悔や寂しさから逃れたいと望んでいた。
洞窟の中、地下を流れる川へ向かった男は、岸辺で古老に出会う。古老はミソギなどやめろと忠告するが、男は聞き入れない。
男が川で水浴すると、家庭をもっていた頃の記憶が薄れ、後悔や寂しさが消えた。
二十年後。ミソギの秘術を求めて、年配の男が、かつてナカツクニがあった土地を訪れる。
男は大規模な詐欺に関わったことが露見し、警察に追われていた。ミソギの秘術によって罪を消し、裁かれることをまぬがれたいと望んでいた。
洞窟の中、地下を流れる川へ向かった男は、岸辺で古老に出会う。古老はミソギなどやめろと忠告するが、男は聞き入れず、川に入る。直後に断末魔が響き、男の姿は川の中に消える。やがて、男の衣服だけが水面に浮かび上がり、流れていく。
流れていく衣服をながめながら、古老はつぶやく。また一人、ケガレのかたまりとなり果てた者が、ミソギの川に流された。皆、ミソギによって一時清らかになっても、なぜかまたすぐに、より大きなケガレをためこんで戻ってくる。だから、やめろと言ったのに……、と。
文字数:1004
内容に関するアピール
自分にとって一番身近な、日本の神話を題材にしました。また、日本の神話ならではの要素を使いたいと考え、水浴によって過ちや罪を洗い流す禊を取り上げました。
現実の人間の場合は、簡単に過ちや罪を消し去る方法が存在したら、それを望む人にもその周囲にも、結局良い作用を及ぼさないのではないかと思います。過ちや罪は自らの行動の結果ですが、考え方や行動が変わらなければ、同じ過ちの繰り返しから抜け出せないのではと思い、今回の梗概になりました。
文字数:214