梗 概
魔導絵
村越は数年ぶりに実家に帰った。
祖父が亡くなったので葬儀のために。それから祖父の遺言で蔵の中にある全ての物を相続したので、何が蔵にあるのかを見るために。
村越は幼いころに何度か蔵の中に入ったことがある。けれどその記憶はおぼろげだった。
祖父との思い出もほとんどなかった。村越の記憶にかすかに残っているのは、祖父は絵描きだったこと。
祖母から聞いた、祖父はあちらこちらを旅しながら絵を描いていた、という話を思い出した。
葬儀の翌日、村越は蔵の中に入った。この蔵が建てられたのは昭和初期のころ。時の流れが染み込んでいる箪笥や文机や着物などが雑然としていた。そんな中に村越は古いスケッチブックを見つける。祖父が旅をしながら描いたものだろう。祖父がどんなを絵を描いていたのか村越は見たかった。
でもできなかった。その古いスケッチブックは、見られることを拒否するように、紐で何重にもきつく縛られていた。
村越はスケッチブックを持って東京の一人暮らしのアパートに帰る。
そしてその夜から、ある夢を見るようになる。
満月の光に照らされて鬱蒼と茂る木々。暗く長く続く森の中の道をひたすら歩く夢だった。
毎晩同じ夢を見る。
同じ森の中でも周りの景色は少しずつ変化している。
村越はある場所を目指して歩いているようだった。
その目的地が近いのか、前のほうから声が聞こえるようになってきた。今まで聞いたことのない悍ましい声だ。
朝起きると村越の足は本当に長時間歩いたように疲れている。
なぜこんな夢を見るようになったのか村越は考えた。
そして、祖父の葬儀から帰ってきてから見るようになったことに気がつく。
持ち帰ってきてしまったあのスケッチブックが原因だろうと村越は結論づけて、
そして、紐できつく縛られている封印を解いていしまう。
そこには毎晩夢に見る森の絵が描かれていた。
スケッチブックをめくっていくと、まだ夢には出てきていない、石造神殿のような絵がある。これが目的地なのだろうか?
そしてスケッチブックの最後の一枚には怪物が描かれている。
タコのような頭に何本かの触手が伸びて、胴体はうろこに覆われて、爪の長い前足と後ろ足をもっている。
そして背中には翼がある。その怪物は眠っているようだ。
夢を見続けると、最終的にはこの怪物に出会うことになるのかと思うと、村越は怖くなる。
いや、夢ではない、と村越は確信する。その証拠に朝起きると足が疲れている。村越は、この絵が持つ不思議な力で、怪物が眠っている石造神殿へと導かれている。
祖父は世界中を旅しながら、この怪物が眠る石造神殿を発見してしまったのだろうか?そして、絵を描いた。この怪物に描かされたのかもしれない。
『こいつは復活する日を待って眠っている。こいつが目覚めたら人類は終わる』と怪物の絵の裏側に書かれている。村越はスケッチブックを再び封印する。しかし、夢は終わらない。
文字数:1200
内容に関するアピール
クトゥルー神話をモチーフにしました。
東京創元社のラヴクラフト全集を全部読んでクトゥルー神話を十分に理解してから書こうとしたのですが読破できず。
今はまだクトゥルー神話消化不良ですが、実作までには消化して21世紀の新しいクトゥルー神話物語にしたいと思います。
文字数:127