最後の人

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梗 概

最後の人

〈声の文化〉の終焉とともに、〈文字の文化〉が生まれ、「神話」が誕生した。だが、そのとき人類は何を失ったのか。

紀元前800年頃。生まれつき弱視だが、鋭い耳をもつメニッポスは、書くことを知らない村、つまり、全てが声と記憶による〈声の文化〉の村の族長。〈ある勇者の帰還の物語〉を、天才的な美声によって先祖から語り継いでいた。

この小説は、失われてゆく〈声の文化〉の末裔メニッポスが、村民皆殺しにした「逆さ牛頭の一族」に復讐するため旅に出て、一人の親友と一人の恋人に出会い、世界に散らばる3つの物語を探し求めた末、処刑される話である。

 

逆さ牛頭の刺青を入れた男=小説の冒頭で、村を焼き払う。後に、復讐心に燃えるメニッポスが捕まえて成敗するが、死の直前「物語は3つある」「Literaが全世界を支配する」という遺言を残す。

一人の親友=焼け野原の村で保護した銀髪の少年オミロス。彼も語り部の末裔。事件の衝撃でひどい吃音に。2つめの物語〈息子の物語〉を語る。メニッポスとのふたり旅の末、美しい青年に成長。力を合わせ、村を襲った犯人を殺す。牛頭一族の島ポイニーケにたどりつく。Litera=文字に出会い、著述家として頭角を現し、牛頭王おかかえの哲学者となる。

「唖の村」の判じ絵=メニッポスとオミロスが最初に訪ねたのは、村民全員が唖の村だった。この村では、小さな粘土石に刻み込んだ抽象的な絵に、第二第三の意味をもたせ、石を何通りにも並べることで、村人だけがわかるコードとして用い意思疎通していた。村の外では流通しないコード。オミロスは嬉々として覚えるが、メニッポスは受け入れられない。

 

Litera=牛頭一族が作ったポイニーケ島の完全な文字。小さな粘土石に絵が刻まれているのは「唖の村」の判じ絵と同じだが、「音」をも表す。逆さ牛頭文字は、「A―」という母音を表していた。「Literaが自由にしてくれる」とオミロスは、習熟に打ち込む。メニッポスは、「Literaは自分とは切り離された、死のことば」として、オミロスと離れる。

 

一人の恋人=エウローペ。たどりついた牛頭一族の街で二人を匿う美しい娘。実は牛頭王の娘だと後で分かる。「ことばとは、目の前のあなたに直接届けるもの」と言ったメニッポスに恋し、〈声の文化〉の理解者となる。しかし、父王に気に入られた著述家オミロスに求愛され、引き裂かれる。メニッポスへの別れもLiteraで伝え、文字の世界に戻る。

 

牛頭王=オミロスとエウローペの結婚式で現れる。メニッポスは宴席で復讐計画を実行するが、失敗。メニッポスの処刑を命じる。

 

3つの物語=処刑の日、メニッポスは「最期の望みは?」と聞かれて、3つめの物語を聴きたいと告げ、エウローペが語る。〈勇者の物語〉、〈息子の物語〉、に続く最後の物語は牛頭一族に伝わる〈妻の物語〉。これを聴いたのち、メニッポスは処刑される。物語=『オデュッセイア』は、メニッポスの頭の中で完成するも、永遠に失われる。

 

3つの物語の作者=オミロス(Homeros)は、記憶を頼りに『オデュッセイア』を1つの叙事詩につなぎ合せて、巨大な石版に書き込む。だが、メニッポスの物語の部分については、オミロスもうろ覚えで、その多くは失われたまま、墓標のようなテクストと作者の名前だけが残った。

 

文字数:1357

内容に関するアピール

文字の誕生とともに、神話も誕生した。

 

声だけで語り継がれてきたものが、完全な表音文字の誕生とともに、文字として固着された。

なぜ、これらは同時でなくてはならなかったのか。

 

失われた声の文化の時代の、豊かさについて描写しつつ、

いわゆる「ホメロス問題」に取り組みたい。

 

ホメロスを、3人の人間に分解する。

文字数:146

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