梗 概
銀河ダークツーリズム・ガイド
1/シング 地球からの距離:1.24パーセク
ミステリ作家のナナツは、ミチルと結婚五周年記念の宇宙旅行でその体験を紀行文にに書いている。
ツアーの目的地は五つの惑星。戦争遺跡など負の遺産を巡るダークツーリズム。
ミチルは一つの星で三枚の写真を撮りデータを地球に送る。なぜ三枚なのかミチルは答えない。
惑星シングでは戦争祈念日に祭りを催す。二人は祭りを観光し、その星で起こった過去の出来事を知る。
写真:宇宙船、祭りのやぐら、郷土料理。
2/コザ 地球からの距離:5.11パーセク
宇宙船は、コザの衛星軌道上でテロリストに占拠される。ナナツの目前で、ミチルはコザの古式ゆかしい拷問を受け死ぬ。
2/コザ 地球からの距離:5.11パーセク
コザに辿り着く。コザは惑星全土で戦争をしているが、ツアーは休戦時期に設定されている。
衛星軌道上のテロリスト達が、コザに到着する一週間前に逮捕されたというニュース。ミチルは「怖」と呟く。
ナナツは兵士の話を聞く。兵士は、自分は敵を殺したくて殺しているわけじゃない、必要があって殺していると話す。
写真:古城、戦場で休息する写真、美術館のような宇宙校。
3/オロシ 地球からの距離:9.27パーセク
宇宙船は、オロシへの道半ばで隕石に衝突。ミチルは事故死。
3/オロシ 地球からの距離:9.27パーセク
オロシに辿り着く。オロシは大気圏外まで伸びる巨大なエネルギー施設を中心に都市が設計されている。伝統的で古風な職人技術が賞賛されるオロシで、ナナツはレンガ職人の話を聞く。レンガ職人は、レンガは自分が収まるべき場所を知っている、職人はその場所へレンガを運んで詰むだけだと話す。
写真:レンガ職人の仕事場、巨大エネルギー施設、古書店で買い込んだ自己啓発書。
4/イーセ 地球からの距離 11.22パーセク
イーセの写真が地球に届かなかったのでイーセの紀行文は書けない。
5/ゴボー 地球からの距離:20.17パーセク
宇宙船のなかで、ナナツはミチルが他の旅行客と不倫をしている現場を目撃し、衝動的にミチルを殺してしまう。
5/ゴボー 地球からの距離:20.17パーセク
宇宙船のなかで、馬鹿馬鹿しいミステリのような連続密室殺人が起こる。恐怖を覚えるナナツと逆に、ミチルは活き活きと推理を始め、事件を解決する。殺人はシング、コザ、オロシの文化の見立て殺人だった。
そして今度はイーセの見立て密室殺人が起こる。
ナナツはイーセとゴボーを何も知らない。だからミチルの興味を惹く密室殺人という嘘から逆算して、ゴボーの紀行文を、さらにそれ以外の知らない星の紀行文も次々と書き始める。その道程でミチルは繰り返し死に、あるいは事件を解決する。
宇宙に負の遺産をもつ惑星の数は34兆550億12万708。全てのダークツーリズムを終えるまでにかかる距離は約5110兆パーセク。
ナナツは約5110兆パーセクを移動する紀行文を書き続ける。
ミチルはその近くで34兆550億12万708の密室を解き続ける。
嘘が現実よりも現実になるまで。
文字数:1267
内容に関するアピール
宇宙旅行に行った妻が生死不明になり、地球に残っていた夫(作家)が、彼女のことを繰り返しフィクションに書き続ける物語です。
物語冒頭では、ミチルとの距離感の溝を書いたり、彼女を虚構の中で殺し続けていたナナツが、最後には自分と彼女との上手い距離間を書くに至る物語でもあります。またそれは、「過去/現実を書くこと」についての物語でもあります。
着想は、あいちトリエンナーレに行ったとき、スケジュール調整をミスって、ネットで最も話題になっていたホー・ツーニェン〈旅館アポリア〉を見逃した体験からです。折角名古屋まで行ったのに…。その悲しみを消化するために、「自分が観ていないものを書くこと」と「長距離移動」のふたつを膨らませてこの物語にしました。
実作本文は終盤以外は紀行文を擬態し、惑星の風土を色濃く描写する予定です。構造は舞城王太郎『暗闇の中で子供』、文体や固有名は中上健二『紀州』を意識しています。
文字数:399