渦を追う

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梗 概

渦を追う

平成35年9月19日は異常な気圧配置であった。大陸からの寒気は北海道の山岳部に初雪をもたらした一方、東京と名古屋では40度を超す猛暑となり、長大な寒冷前線を形成した。竜巻は未だ謎が多く、専用の観測装置も存在しない。つまり、竜巻がどこで生まれたのかは、映像または証言に頼るしかない。

 

■F2-3:三重県伊勢市 タテヤマ カズヤ(13)

タテヤマとその級友たちは竜巻の映像を撮影し、ネット上に投稿した最初のグループである。TikTokに上げられた短い動画は、鳥羽有料道路から伊勢湾を西に撮影したもので、竜巻がタッチダウンした瞬間を見たかという質問に、タテヤマは首を振って答える。気象庁の当初見解とは異なり、竜巻は太平洋の彼方からやってきたと。

■F4:京九フェリー「さつき丸」 マナベ サチエ(66)

大手銀行を定年退職した夫が購入したキャンピングカーとともにサチエが乗船したフェリーは、伊豆半島沖合で竜巻に遭遇する。高波というアナウンスの直後、衝撃とともに船体が破断され、完全に沈没するまでの船内の30分をサチエは克明に語る。浸水が始まったとき、彼女は夫を探しに行ったのではなく、船室に離婚届を取りに戻っていた。船体がはぎ取られ、そこから海に投げ出されたサチエは、気が付くと黄色いレジャーボートに乗って海に浮かんでいた。サチエは夫がキャンピングカーごと海に沈んでいると信じていて、レジャーボートには・バケーション・リゾート」のロゴがあったと彼女は証言する。

 

 

 

■F5:東京都港区田町ゲートタワービル46階 タジマ ショウタ(28)

大手人材派遣会社であるタジマの勤務先では、午後7時すぎ、南側の窓辺に人が集まるようになった。川崎の方角が赤く染まり、TVではフェリーの沈没や羽田空港や東京湾トンネルの大火災が報道され始め、タジマたちは興奮気味に次の商売のために被害を受けた顧客の洗い出しを開始する。やがて台場の向こうの赤い壁が、京浜コンビナートによって火災旋風と化した基部5キロほどの巨大竜巻であることがわかると、社内はビジネスの空気から一気に恐慌状態に変わる。非常階段の行列を見たタジマは、業務用エレベータに乗り込んだ瞬間停電に襲われる。暗闇の中、鉄骨が軋む音を上げ、エレベータごと落下したタジマは、緩衝材と地下階へ落ちたおかげで助かったと笑う。他人に構ってなどいられないと言うタジマだが、翌朝ビルの外へと出たときのことを聞かれると、手を震わせて泣きはじめる。

 

 

 

 

■F1:グアム島  サトウ ハルカ(4)

寒冷前線の南端にあったグアム島ではビーチが閉鎖されていた。ハルカは両親の目を盗んで誰もいないビーチに行き、黄色いレジャーボートが荒れた海に流されていくのを目にする。そのはるか先、上空から細い渦が降りてきて海に着水するまでの様子を、ハルカは詳細に話し始める。

 

文字数:1184

内容に関するアピール

大好きなパニックものをきちんと書きたい、と思い、今回のお話にしました。竜巻と言うとアメリカ中西部のイメージがありますが、1978年に東京湾を縦断した竜巻が地下鉄東西線を横転させたり、最近も千葉県での被害がクローズアップされるなど、日本でも無縁とは言えない災害となっています。一方で、そのメカニズムは謎が多く、特に我が国では地震や津波ほど精密な観測網や防災体制が確立されているとは言えません。

通常の竜巻は長くても十数キロ前後が平均的な移動距離ですが、今回はグアムからやってきた怪物のような竜巻が、大きさや姿を変えながら、大型フェリーを破壊し、東京南部を蹂躙します。

迫力とリアリティある描写で、いまだ起きたことがない大災害を表現したいと考えています。

文字数:323

課題提出者一覧