最良の友・たち

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梗 概

最良の友・たち

〈私〉のかけらが散ってから、地球は274回公転した。生命データの収集はまだ不完全だが回収機に搭乗する時間だ。〈私〉たちは集結を始めた。

ダイオウイカは深海で熱水湧水口に蝟集するカニと共に小石を食い、〈私〉の宿主になった。イカは水圧を忘れて上昇を続け膨れ上がり、やがてイルカの群れに食われた。
黒潮が寄せる九州の海岸にイルカが大量漂着した。聴覚をウイルスに冒され方角を失ったのだと検疫されたが、イルカを陸に駆り立てたのは〈私〉だった。
イルカたちが浜に吐き出した小石は一つの輝く石に融合して、人間と犬に拾われていた。石である〈私〉は人間が最終宿主だと思った。地球支配者の認識を持ち、地図という知識さえ持っていたから。
人間は列島の北端にまで行きたいという衝動に駆られ旅立った。犬と共に鉄道に乗り、途中下車しながら〈私〉の断片を拾い集めた。断片たちは各地から転がり集まって〈私〉を待ち受けていた。歓喜に満ちた旅。しかし途中で犬が怯えて逃げ出し、〈私〉は犬を置いて行く指示をしたが人間は従わなかった。そこでより強く人間を支配するために意識を融合させ、分離不可能になるまで深く入り込んだ。
そうして〈私〉は真実を知った。地球生命の謎が解明された。

犬こそが地球上で最も崇高な生物なのだ。

〈私〉が持ち帰るべきは犬だった。〈私〉の任務は地球の知識と生物標本の収集、そして地球最高個体の回収だ。犬を探し出した〈私〉は、既に人間と一体化していたから犬を宿主にはできなかったが、人を使役するから都合は良かった。〈私〉は自動車を借りて目的地に近づいた。やがて親潮が寄せる北海道から来た、〈もうひとりの私〉に出会った。それは牛だった。相手は牛の胃に宿り、牛こそが最高生命だと主張した。重量あたりの金額が純金並の最高級和牛で、数十億の地球人類から神と崇められていると認識しているのだ。〈私〉より大きい多くの演算子を持つ石だったが、私は軽蔑し融合を拒否した。自分が食肉加工場に送られる途中だということも知らない相手なのだ。〈私〉は怒りから無意識に車を走らせ、いつしか下北半島に来ていた。
半島には北上も南下もできず土に埋もれる巨大な〈私〉がいた。生物相も貧弱な土地に閉じ込められ274年過ごした〈私〉。それは回収機としての〈私〉の動力部だった。自分も他の仲間もただの記憶素子だが、この巨石さえあれば母星に帰還できる。〈私〉は人間と犬と共に帰還することを求めた。巨石は融合を開始し〈私〉の記憶表層を撫でた。真実を知った喜びに震えるのが解る。
しかし触手は引いた。
なんということだ!
地響きと共に巨石は土中から盛り上がり、空を覆う巨大な傘となり飛び去ってしまった。輸送中逃げ出した牛がキャトルミューティレーションされたというニュースを、人間社会は真面目に受け取らなかった。巨大飛行物体はただの曇天にされた。
仕方ない。〈私〉は犬と幸福な生涯を送った。

文字数:1200

内容に関するアピール

環太平洋巨石文化の名残りか、東北には石の御神体が多いと言われます。「石=私」が海と日本列島を旅し、最後には最も長い旅から置き去りにされてしまい、しかし幸福になる話とします。

石をリレーする生物を人間とは異なりつつ個性のある存在として描き、海と陸の変わり続ける風景を描写することで読み応えがある作品にしたい。また滑稽な展開を配して最後のキャトルミューティレーションの光景は大げさに盛り上げたいです。

鉄道と自動車そして徒歩の旅は、宿主となる人間の問題と解決(中学校の生物教師で不自由な生活から夏休みに失踪し、日本縦断旅行をしたように世間から見られる。最後には生徒より犬を愛している自分の滑稽さに気づく)を描きたいのですが梗概に盛り込めませんでした。

お約束ネタ(人間が地球の支配者ではない・巨大UFOが空を覆う・牛が宇宙船に吸い込まれる)を楽しめるよう、視覚描写を重視した娯楽作品にします。

 

文字数:391

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