勝利する銃弾

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梗 概

勝利する銃弾

2042年7月31日。広島平和記念式典の壇上にあがった首相の頭を一発の銃弾が撃ち抜く映像がサードアイルームのモニターに映し出された。原爆ドームの上で誘導型ライフル銃(銃弾が自動的に軌道修正しながら目標を捉える)を肩にかけている男がいる。自動解析によると8月6日8時35分、犯人は長谷川遼。極右思想の持ち主。
「直ちに逮捕だ!」
山形の声が飛んだ。

8月1日。公安部第三視課の山形は取調室で〈予見逮捕〉した遼を尋問している。予見逮捕とは、厳しい審査をクリアして国家資格を取得した人の脳の海馬に電気を流すことで6番目のチャクラ(第3の目)を活性化させる。そしてその特徴である〈予見〉を額につけた電子チップを通してモニターに送り、時間、場所、人物を特定し、逮捕するというものだ。おかげで今回も未然に首相暗殺を防ぐことができた。

遼が沈黙を守る中、一つの映像がモニターに流れる。リニア新幹線に乗っている遼だ。
解析結果は8月3日10時13分。東京駅を出たところ。
「どういうことだ。なぜお前は未来で移動している。どうやってここを脱出するつもりだ?」
〈俺にだってわかるかよ〉遼は胸で呟く。
また映像が流れる。遼が大阪でお好み焼きを食べている。
「ふざけやがって!」
次の映像が流れる。岡山で遼がアンドロイド売春婦と寝ている。
次は広島でお好み焼きを頬張る映像。
「バカにしやがって!」山形は激昂する。
〈面白い、俺にはまだ未来があるようだ〉と遼。
その後も次々と映像が流れる。
遼がアンドロイドペットショップでペットを物色している姿。アンドロイド鳩を改造している姿。
そして不意に、平和記念式典でたくさんの鳩が一斉に飛び立つ映像が流れる。その中に紛れた一羽のアンドロイド鳩が口を開き、銃弾を発射する。各国首脳陣の中に座る首相の頭が撃ち抜かれる…
「新しい暗殺計画を立てたようだが無駄だ。これらの映像をもとに対策を取るからな」
山形は言う。
「お前にも協力してもらおう」
遼も眉間に電子チップをつけられ、脳に電流を流される。
〈吐きそうだ。俺は資格保有者じゃないからな。変に作用しているらしい〉
眉間に意識が集まり、飛びそうになる。自分を眺めている自分がいる。

平和記念式典前日。
遼の額の電子チップを通して、広島のホテルで遼がアンドロイド蝶に超小型爆弾を装着している映像が流れる。
「この期に及んで!」
カッとなった山形は遼に頭突きをしてしまう。
その瞬間、遼の意識が飛び、山形の脳に移った。
遼は壁に後頭部を打ち、死んでしまう。
〈はっはっは、こういうことか〉
山形の体に意識が移った遼は、死んだ自分を見つめる。

平和記念式典当日。
厳戒態勢の中、首相が壇上に上がる。
〈殺してやる〉
警護に当たっている山形はニヤッと笑い、懐から銃を取り出す。
しかし伸ばそうとした腕が意識に逆らい、曲がっていく。
〈どういうことだ、体が言うことを聞かない〉
山形は自分の心臓を撃ち抜く。
〈クソ、山形め〉
遠のく意識の中で遼は呟いた。

文字数:1218

内容に関するアピール

今回のテーマをいただいた時に、ふと頭にのぼったのが「走れメロス」でした。何が気になったかというと、走るメロスと監禁されたセリヌンティウスの相対的な関係性です。二人は別々の行動をとっているのですが、強固な絆で結ばれています。そこで「移動し続ける者と、とどまり続ける者が同一人物だったら」という問いが生まれ、この物語の着想となりました。

文字数:166

課題提出者一覧