ふたつの船

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梗 概

ふたつの船

リンは、管理人をしていた。
それを彼女は「ノアの箱舟」と呼んでいた。地球が情報統合、思想統制され、彼女の父親の会社が統合体に経営権を奪われる前に、彼女の父親は、人類の文化資産と、統合の過程で殺されていった人々から手を尽くして回収できた卵巣と精巣のストック、さらに、おもだった動物の受精卵、植物の種子、菌類を保存した。若かった彼女は、父親と議論の末、遺伝子エディターとともにそれらを小型航宙艇につめこんで、彼女だけそれにのって、知られているもっとも近い地球型惑星に向けて出発した。
惑星の軌道に到着し人工冬眠から覚醒したときは数百年が経過していた。惑星には、植物があることが観察できた。
着陸は一度きりである。つよい岩盤の高台に艇をおいて大気を分析し、彼女はがっかりする。やや濃い酸素はともかくとして、大気中に致死量をわずかに超す青酸が含まれていたからである。
彼女は、遺伝子エディターをつかって受精卵の遺伝子をいじくり、青酸に耐性のある生物をつくりだしては、その惑星に放していく。
艇の外殻を開放し、透明シールドのみの状態で、彼女は、外を眺めて暮らした。
外界に放された生物はほとんどがすぐ死んだ。Aiを動かし、死んだ原因が大気や摂食物であれば、それに対応できるよう遺伝子をかえてはまた生物を放った。
もともとあった生物たちは、新しい生物に対応できない。艇の周辺から自然は変化していく。
じゅうぶん外界に対応できるだけの遺伝子の変化を把握し、リンは、人間をつくりはじめる。しかし、人間については、育児が必要である。保育器は数台しかなく、手も回らず何人も死なせた。ある程度育ったら外に放すことしかリンにはできない。言葉も知識も不完全な子供たちが外をうろつくようになる。人数が増えると、集団生活らしいものを彼らははじめる。
そこへ、ちいさな宇宙艇が空からおりてくる。思想統合体の統治はつづいており、人口も増えた。彼女が地球を出て数百年後、地球型惑星に向けて調査船が出たのである。航宙技術がすすんでいて、ずっと前に出た彼女に追いついてしまったことになる。調査船はパイロット一人だけで、彼女が出た経緯は知らず、かって宇宙に出た富豪の家族としか認識していない。
通信をうけたリンは、その後の地球についての情報をダウンロードさせ、彼女の父が犯罪者として裁かれた記録を見た。
リンは調査船のパイロットを招いた。リンの船で、シールドごしに外をみながら二人は会話する。思想統制されたパイロットに現状を罵倒されるに至り、リンは腹を立ててシールドを開放し、自分は隠し持ったマスクを使ってパイロットを殺そうとしたが、簡易で一時的な遺伝子改変が可能になっておりパイロットには青酸耐性があった。
リンは捕獲される。星に、ノアの箱舟と、遺伝子改変された生き物たちは残され、箱舟はやがて朽ちていった。

文字数:1172

内容に関するアピール

時間も無くなりぎりぎりに仕上げたもので申し訳ありません。
地球脱出したもののうまくいかない話です。
スエーデンのグレタさんをみてるうちに、こういう話になってしまいました。
遠くと言えば宇宙やろうと安直に考えているうちに動けなくなったのですが、「移動し続ける」話ではないし、道具や設定がご都合でもっと練りこんで伏線化する必要があることも、しっかりオチていないことも自覚しています。実作では不自然のない流れにします。

文字数:203

課題提出者一覧