梗 概
エレクトリカル・ジャーニー
女子高生のレイカは、流行りのダイブゲームをプレイしていた。それは遠くの場所にあるロボットのマイクやカメラを、自分の五感で接続し、遠隔で旅行を楽しむゲームだった。レイカは、(性格は完全にギャルだが)生まれつき身体が弱かったため、自分の脳を電脳化してカスタマイズし、実際にはできないアメリカ旅行をゲーム中で楽しんでいた。
ある日、レイカはゲームをプレイ中、AIシステムの声を聞く。それはゲームアシスタントのキャラクターAI,『マキナ』の声だった。レイカは気がつくと、自分の意識がネット空間上に放置され、元の体に戻れないことを知る。一方、AIであるマキナはレイカの身体に入ってしまう。一般の人間より電脳化されたレイカの身体だったが、そもそもリアル空間に降りたことがないマキナは、人間の身体に戸惑う。
携帯端末のビデオ通信で、連絡を取り合うふたり。元に戻るには、アメリカにあるサーバー企業<R.U.R>を訪ね、解除してもらわねばならないこと。メールや電話で問い合わせをしても、セキュリティが強く、また向こうもいたずらだと思って相手をしてくれない。ふたりは直接その企業に向かうことに。
レイカは最初、ネット経由で<R.U.R>にアクセスしたが、セキュリティが強く、入るにはマキナであるという証明書が必要だった。レイカは広いネット空間に驚愕し、自由を謳歌する。地球の裏側までとび回るレイカだったが、途中、道中のファイアーウォールやセキュリティに阻まれ、自宅の隣家のネットワークにすら入れないことに気がつく。また、いろんなところに行けると思ったら、そこはアンダーグラウンドな画像がいっぱいのサーバーだったり、すぐ隣にヘイトに満ちたSNSが広がっていたりで、レイカは迷いに迷う。レイカはとうとう、悪質な犯罪ネット空間に入ってしまい、<R.U.R>にすら戻れなくなる。ダイヴできる適当な電脳も見つからず、レイカは途方に暮れる。
一方、レイカの身体に入ったマキナは、自分もネット接続を試みようとするも、レイカが接続するようにはうまくいかず、自分の身体でアメリカに向かうことに。ネット空間では一瞬の道のりも、人間の体では地道に移動するはめになり、マキナは慣れない身体で、空港どころか自宅の外にでるだけで力尽きてしまう。
自暴自棄になり、ビデオ通話でお互いの不出来を罵りあうふたり。しかしふたりは、お互いを励まし合い、元に戻ったらゲームで一緒に旅行することを約束する。
長い道中の末、ふたりは同時に<R.U.R>にたどりつく。企業の役員を問い詰めると、マキナの人格は近々、ゲームのサービスとともに消去される予定であり、それに気がついたマキナが本能的にレイカの体に逃げたのではないかということだった。レイカはマキナに、自分の身体を譲ろうとするが、マキナはそれを否定して、自身の消滅を選ぼうとする。レイカは止めようとするが、それを見て感動した役員が、マキナ用のサーバーを用意し、マキナを存続することを決める。
ふたりは約束した旅行をすることを決め、ゆっくりふたりで日本へ帰ろうとする。
文字数:1279
内容に関するアピール
ロードムービーのおもしろさ(つらさ?)は、その距離がいかに長いか、具体的に読者にイメージさせることだと思います。東京ー札幌間を自転車で移動、なんて、すぐにイメージができてつらいです。逆に、土星まで宇宙船で行く、というのはあまりイメージできません。せいぜい、何年かかるよ、くらいです。
では、人間が歩くことをイメージして、それがどれだけめんどくさいことなのか、一番よくわかるのが、コンピュータなのではないかと思いました。
『AIが身体的経験から言語を獲得できるかどうか。「物価が上がる」。上がるとはどういうことか。人工知能に「広さ」や「上」「下」の概念はないはず。』というのを本で読み、もしAIが肉体を獲得したら、移動がしんどすぎてつらいだろうなあと思いました。
文字数:332