RETINA

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梗 概

RETINA

 同じような奴しかいないよな、とウィルは呟きながら町を歩く。それを聞いたカタリナ――ウィルよりも二回りは歳が上だ――は当たり前じゃないかと応える。

 二人はコースティック社所属の引揚者だった。昔の仮想コミュニティ内から現在では失われた知識を引き揚げるのが仕事だ。今回は〈BODY LANGUAGE〉というコミュニティ内に潜行し、人の間を円滑に取り持つソフト〈RETINA〉(以下、〈RET〉)を引き揚げるのが目的だった。現代で円滑なコミュニケーションをかわすのに必須ともいえる技術だ。

 いざ〈BL〉に入ってみると、驚くほどに閑散としていた。町に着いてもいるのは、同じ言葉を繰り返したり、にっこりと微笑むことくらしかできない中途半端に人間を模倣したボットたちだけだ。ウィルは本当にここに〈RET〉があるのか訝しむ。だがカタリナは疑わないので黙って進む。町から町へ。

 二人が穴だらけになった道路を歩いていると、一人の少女と出会う。単調なボットたちにうんざりしていた二人は喜ぶが、その少女は腰から捕縛縄ピールを取り出し二人を拘束しようとする。油断していたウィルはあっけなく捕まるが百戦錬磨のカタリナは逆に少女を捕らえる。

 二人が少女に話を聴くと、少女はイグジットと名乗り、〈RET〉を引き揚げるために来た無所属の引揚者だと言う。彼女曰く〈RET〉は〈BL〉内で人型に擬態しており、ほかのボットとの差異はその人間らしさだという。だから人間らしい二人を見かけて捕縛を試みたのだと。

 仕事上のライバルに捕まったイグジットは〈RET〉引き揚げを諦めるというが、手がかりのない状態のウィルが協力を要求する。カタリナはイグジットがかつて別の引揚会社を危険行動でクビになった厄介者だと話すが、ウィルはそれでも、と対抗し、結局対象を補足できるならとカタリナも同行を認める。ぎこちない会話をしながら三人での捜索が始まる。社の会話ソフトをインストールしていないイグジットとはコミュニケーション上の齟齬があるのだ。

 イグジットの知識によって〈RET〉の行動パターンを解析し、ある町で逃げる対象を追い詰める。三人で行う作戦を立て実行に移したとき、イグジットは裏切りカタリナを捕縛する。ウィルは慌てるがカタリナは構わず追うように言い、ウィルはイグジットと競り合うようにして対象を追う。

 行き止まりで、二人と一体は膠着状態になる。先に対象を捕縛するべきかイグジットを地面に転がすべきか悩み、結局対象の捕縛を優先する。イグジットは彼女に背をむけたウィルを捕縛しようとピールを伸ばすが、結局捕縛はできなかった。なぜか。

 ウィルは対象を捕縛すると同時に〈RET〉を自身にインストールし、イグジットにいままで言いたかったことを叫んだのだ。俺たちと一緒に働かないか。

文字数:1162

内容に関するアピール

 長距離移動をするゲームが締め切りの一週間前に発売しまして、それをやっていると一人はやはり寂しいなと思います。本作はある意味イグジットの孤独を救う話でもあり、だからこそクライマックスまでのイグジットとウィル・カタリナのコミュニケーションは、われわれが普段感じている、伝わらないイライラや身振り手振りでようやく伝わる嬉しさなどを書ければいいなと思っています。

 結局、長距離移動ものの間を持たせるには誰かと行動を共にさせるという手しか自分には思い付きませんでした。「バナナ剥きには最適の日々」を参考に一人で移動するのも考えたのですが、形にはなりませんでした。

 さて、梗概を書き終えたので『ザ・ロード』を再読しようと思います。

文字数:310

課題提出者一覧