梗 概
魔王城
絶海の孤島に佇む魔王城。そこに辿り着く手段は、対岸から魔王城へと続く海底洞窟を突き進むことのみ。
海底洞窟を進む勇者。勇者の目的は世界を滅ぼそうとする魔王を倒すことであり、魔王と対峙するときが目前に迫っていた。
だが勇者は困惑していた。進んでも進んでも海底洞窟に終わりが見えない。いつまで経っても目の前には同じ風景が広がっている。ここが「無限ループ」であると疑った勇者は元来た道を戻ろうとする。
だが元来た道もまた無限ループであった。勇者は何度も似たような道を辿るが、海底洞窟を脱出することができない。勇者は必死になって方眼紙にマッピングしたが、何十回も同じ場所に辿り着けば嫌でもダンジョンの構造は頭に入ってくる。
勇者は以前に訪れた妖精の里で聞いたことを思い出した。
「魔王は幻惑の魔術を得意とします。しかし『光の水晶』があれば必ずその幻惑を打ち破ることができます」
だが光の水晶を入手した記憶は無い。念のためアイテム袋を確認したがそんなものはなかった。もしかしたらここに出現する魔物を倒せば入手できるかもしれないと考えた勇者は、魔物を片っ端から倒した。1/256の確率で落とすレアアイテムを入手できたが、光の水晶は誰も落とさなかった。他の解決策は何も思い付かない。
ここでこの世界の「フラグ管理」が滅茶苦茶なことを勇者は思い出した。大ボスを倒すのに必要な武器をその大ボスを倒してから入手する程度には酷い有様であった。
つまり本来ここは光の水晶を入手しないと入れない場所であり、だからこそ入口も無限ループの対象となっていたのだ。
光の水晶を使わない限りここから脱出できない。この世界では全滅すれば「ゲームオーバー」となるため、全滅して出直すという手段は通用しない。
正攻法ではどうにもならないことに気付いた勇者は「世界の外部」に接触し「攻略本」を入手した。だがそこに解決策は書かれていない。
次に「攻略サイト」というものを閲覧したが、これが「進行不能になる重大なバグ」でありバグが発生した場合は「詰み」と書かれているのみ。
それでも諦めきれない勇者は「壁の隙間」から脱出できるのではと考え、あらゆる壁の隙間に体当たりし続けた。
999時間59分59秒を超え勇者は遂に「外」に脱出することに成功した。だが暗黒が広がるのみで自分がどこにいるのかすら分からない。自暴自棄に陥った勇者はレアアイテムを集めることに躍起になったが、99個集めても何も変わらない。
勇者は死ぬことにした。この世界では「自分を攻撃する」ことができないため自殺できない。レベル99の勇者は敵からのダメージを受け付けない。だが1/4096という超低確率で発生するクリティカルヒットにより勇者は1ダメージを食らうことができる。
棒立ちとなった最大HP9999の勇者はひたすら敵の攻撃を受け続ける。まだ千の位どころか百の位すら変わらない。
文字数:1200
内容に関するアピール
第5回梗概は奇を衒わずにお題をそのまま反映させたものを提出しましたが、結局どんな梗概が講師陣に選ばれるのかが分からなくなったので、第6回はお題から連想した自分の書きたいものを書くことにしました。
「城に辿り着けない」というのはカフカの「城」から思い付きました。そこに「RPG」という概念を混ぜれば面白そうだと思ったのですが、これまでもゲームを題材とした梗概はいくつか提出されていたので何とも……。
ラストダンジョンに限らず長いダンジョンというのは、こちらの心を折りにくるものがあります。それでいてフラグを忘れていたりすると大惨事に。
次の目的地に行けない、おそらくフラグが立っていないのが原因だが、以前の場所に戻りフラグを探してみても何がフラグか分からず、先に進めないのはバグではないのかと疑心暗鬼に陥る――。
さて「進行不能になるバグ」に陥りさらに「リセットできない」場合は、どうすべきですかね?
文字数:400
魔王城
文字数:59