梗 概
あんたはそれでいいのか?
東京都郊外に住む日野森一家は多言語コミュニケーションAIを搭載した家庭用ヒューマノイド・ユニを購入。6歳の娘・菜月により「ミル」と命名され、ミルは日野森家の一員として、充実した日々を送っていた。
それから約3年が過ぎた8月の半ば。その日、ミルは客をもてなしていた。日野森一家はミルに留守を任せて北海道へ旅行に出ていたが「小太郎君が来た時はもてなすように」と指示を受けていたからだ。しかしミルが食事を運ぼうとする瞬間、中央AIから情報が届き、日野森一家が交通事故に遭い、全員死亡したことを知る。
ミルは小太郎へ状況を説明し「私はこの後、廃棄されるだろう」と言った。譲渡や寄付など、事前の意志表示が無い限り、所有者を失ったヒューマノイドは廃棄されるのが規則だった。小太郎はミルへ「それでいいのか?」と問い「日野森の人間は意志を示さなかった。でもそれは、意志が無いことを示すわけじゃない。規則に従うのは、それを探してからでも遅くはないと思うがね」と言う。
ミルは規則からの逸脱に抵抗を覚えたが、小太郎に説得され「日野森家の意志調査及び遺留品の回収」を理由に中央AIへ交渉。結果、1週間の自由な時間を獲得し「あんただけじゃ心配だ」という小太郎を引きつれ、ユニは日野森家の車で北海道へと向かう。
北海道へ到着後、ミル達は遺留品が保管してある稚内の警察署を目指し北上。途中、留萌にある、ヒューマノイド・ユニを製造する工場を日野森一家が見学していたことが判明。立ち寄ると、ユニが当時の様子を説明し「菜月様の絵日記はご覧になりましたか?」と言う。何のことか尋ねると「夏休みの宿題で絵日記を書いていたようです。ここのことを描くと仰っていたので……」と言い、ミルはまだ見つけられてない旨を伝える。
その後、稚内の警察署へ着いたミル達は遺留品を引き取ったが、菜月の絵日記はなく、警察官も「そのようなものは無かった」という。すると、遺留品の一つであるスマートフォンが鳴った。相手は日野森一家が宿泊したホテルの従業員らしく「お忘れの絵日記を預かっております」とのこと。
ホテルで絵日記を受け取り、開くと、最後のページにはこう記されていた。
「私たちは死ぬけど、ロボットは死なない。ってことは、もし私が死んじゃって、何十年か経って、もしもう一度人間に生まれ変わることができたとしたら、またミルに会えるってことだ。死んじゃうのはヤだけど、遠い未来でまたミルに会えるんだったら、それはそれで、ちょっと楽しみだな」
菜月の想いを無視できない――そう考えたミルは、東京へ帰宅後、福祉施設への配属を申請。数日後、細かな改造を条件に、申請は認可される。小太郎へそれを伝えると「よかったな」と言い、外へ出て、塀の上へ飛び乗った。隣の奥さんが「あら、久しぶり。ソーセージでも食べる?」と声をかけるが、小太郎はそっぽを向き、尻尾を立て、悠然と立ち去っていった。
文字数:1199
内容に関するアピール
「ロボットやヒューマノイドって旅をするんだろうか? するとしたら、どんな旅をするんだろうか?」という着想をもとに、この小説を書き始めました。最初はヒューマノイドと人間のバディもので考えていたのですが、それでは旅の根幹部分でヒューマノイドが人間を頼りっぱなしにしそうだな……と考え、変更しました。実作では、(梗概では割愛してある)旅の道中で、頼りにならない割にはふてぶてしい相方に、おっかなびっくり頑張るミルの描写にも力をいれたいと考えています。
文字数:222