梗 概
ビーヨンの”お友達”リスト
店主の声で目を覚ます主人公。
記憶を失い、自分が誰なのかさえわからない。
持ち物はメモ帳に書き付けられた一篇の│演算詩(詩とプログラミングの複合アート)と「精神転送技術や宇宙船などを用いて33万光年の距離を旅してきたという移動履歴」、そして『ビーヨンのお友達リスト』と書かれた人物リストだった。
戸惑っているとバーの店員が「君は検索惑星からきたサーチコーポレーションのヒューマンドローン(宅配用人型ドローン)だ」という情報をくれる。主人公は機械の体で、頭の右横には確かに「Search.co」とロゴが書かれていた。
しかし、何も思い出せないので、お友達リスト等を頼りにまずは一番近い友人を尋ねることする。
惑星Zから検索惑星まで宇宙貨物船で移動する。ビーヨンの創作仲間リーの元を目指すが、本人は自殺してしまっていた。代わりに転写されたホログラムのリーから、『ビーヨンとリーは妻や恋人を捨ててアートに打ち込む演算詩人だった』と聞く。またドローンを購入したのがビーヨン自身だと知る。
今までの道程をリスト等を頼りに戻っていく。惑星Babelから精神転送技術で中心惑星監視惑星などを旅し、ビーヨンが何をしたのかと、思考関税で惑星持ち込み禁止指定になっていた記憶を少しずつ取り戻していく。
旅の終盤で主人公は自己にまつわる記憶を思い出す。
主人公は自分がサチコという女性であり、自分を捨て詩作の旅に出た夫のビーヨンをGPSを頼りに追いかけて惑星を旅してきたこと,、ビーヨンが自分を捨てて、故郷を離れたことを思い出し、悲しむ。
主人公はすべて無意味と思いながらも、故郷である惑星に戻る。
長い年月が過ぎていたため、故郷に自分の痕跡は見当たらない。お友達リストを頼りにサチコを調べると、ビーヨンが故郷に置いていった意識や記憶が役所に預けられたままになっていたことを知る。
それを引き取り、主人公は見る。サチコに関する初恋の思い出だった。サチコとの良い思い出をすべて置いて、ビーヨンは旅だったのだった。
それを見て、今度こそすべての記憶が戻る。ビーヨンとサチコが最果ての惑星Zで出会っていたこと。ビーヨンは転送の繰り返しで、自我喪失病にかかり、故郷に帰ることを望んでいたこと。遠くまで来たことを後悔していたこと。故郷に戻るためにビーヨンがヒューマンドローンを一台購入し、自分の記憶を拾いながら故郷に戻るように、演算詩を書き、お友達リストや移動履歴を持たせたこと。サチコの看病も空しく、ビーヨンは完全喪失。サチコも自我喪失病にかかり、記憶が失われる中、メモを頼りにビーヨンの遺志を継いでドローンを故郷に届くように送り出す。
主人公は自分の中でビーヨンとサチコの二つの自我が生まれるのを感じた。
二人は無事故郷の惑星に戻ってきた。
文字数:1199
内容に関するアピール
今回書いていくのは『33万光年の距離を超光速精神転送技術や 宇宙船 等で旅してきた主人公が、記憶喪失に陥り、旅の目的や自我を忘れてしまい、今まで歩んできた道のりを一つ一つ戻っていく』という長距離移動SFです。
主人公は行きの旅で思想関税に置いていった記憶(主に違法思想)を取り戻したり、お友達リストの人物に出会ったりなど、一つずつ自分を拾い集めて、自分が旅をしてきた目的を思い出し、最後には『すべて思い出し』故郷にたどり着きます。
オルタードカーボンというSF作品の中では、惑星間の自我転送技術があるのですが、正直な話自我喪失の危険性があるため、もっと安全に意識を飛ばして宇宙を旅する方法を考えなくてはいけません。本作では偉大なエンジニアが分散型台帳技術を応用した自我同一性を保つ技術=お友達リストを発明してくれているので、使い方をしっかり覚え、適切に運用すれば安全です。安心です。素晴らしいですね。
(お友達リストはビザンチン将軍問題とかどうするんでしょうね)
お題に関して、本来であれば順当に「長距離を移動し続けるお話の難しさ」に真っ正面から挑み、自分の弱さと戦うべきだったかもしれませんが、あまりにも自分が弱すぎたため、今回ばかりは搦め手で勝負することにしました。
ちなみにビーヨン役はマーティン・フリーマンが演じます。
文字数:574