梗 概
ミチオの噂
1
ミチオって宇宙人なんじゃないか。
その噂がながれ始めたのは、夏休みが終わって直ぐのことだった。
僕は2年前からこの高校に赴任し、数学の教員をしている。ミチオは僕の担任である3年1組の生徒で、どうもこの噂は、僕のクラスから広がっていったようだ。僕も初めは半信半疑だったが、万が一のことに備えて噂の真相を知っておくべきだろうと思い、噂の渦中にいる3人の生徒を放課後、教室に呼び出して話すことにした。
2
1人目はクラスの中で顔の広いワタルだった。
「俺が1年生の時、放課後グランドで仲間とサッカーをしてたら、空にUFOみたいな鉄の塊が落ちてくるのを見たんだ。ミチオは別にその前から学校にはいたけど、その日からたまに何かが乗り移ったみたい不気味な行動をするようになったんだ。ミチオって運動神経あんまりよくないはずなのに、夏休み中のグランドで、俺は俺らの知らない言葉で喚きながら車ぐらいの速さで走っていくミチオの姿を見たんだ。」
2人目はまじめでいつも公正な意見をいえるシズカだった。
「ワタル君は、1年生の時にUFOをみたって言ってたみたいだけど、私はその前にも一度見たことがあるの。私が中学三年生だった頃、この高校の入試説明会に来た時に、グランドの上でUFOみたいなのが一瞬横切ったのがみえたの。周りの人は誰も気づいてないみたいだったんだけど私にははっきり見えたの。仮に私の目の錯覚だったとしても、同じ場所で2回もそんなことおこらないと思うの。私はミチオ君が宇宙人だなんてわからないけど、この学校の近くに宇宙人はきっといると思うの。」
3人目はクラスではミチオと交友が深いオサムだった。オサムは1年生の途中からこの高校に転校してきて、その時に隣の机に座っていたミチオと仲良くなったのだという。
「ミチオ君は、一度ぼくに奇妙なことを言ったんだ。『僕は、この学校に宇宙人がいると確信している。僕はこの学校で宇宙人を見つけ出さなくちゃいけないんだ』ってね。シズカは、UFOを2回見たって言ってたけど、先にUFOで来た宇宙人がミチオくんで、後にきたUFOの宇宙人をミチオ君がみつけようとしているのかなと思ってる。」
僕は3人からその後もミチオの話をきいた。夏休み中、ミチオが校内に同時に2人いたとか、ミチオが宙に浮いているのをみたとか、ミチオに関する噂は沢山あるようだった。話しているうちに、外も暗くなってきたので僕は3人を帰し教室に一人残った。
彼らの話を聞く限り、どうやらミチオが僕と同じ母星の生物であることに間違いないと僕は確信した。
3
遠い昔、僕は母星でとある罪を犯して、母星からの追手に命を狙われる身となった。その後、僕は星間移動機で幾つかの星を渡り、2年前にこの星に行き着いた。僕の星の種族は、他の種の生物にメタモルフォーゼすることができる。そこで、僕はしばらくこの星に潜伏するため、この星の雄にメタモルフォーゼし、高校の教師という建付けでこの星の社会に溶け込むことにした。
しかし、メタモルフォーゼも長時間できるものではない。僕は3人が教室から出た後、もとの本来の姿に戻り、今後のミチオとの距離の置き方について考えていた。暫くし、教室の入り口に物影が見えた。
そこにいたのはオサムだった。オサムは僕と目が合う途端に腕から光る紐状の物質をはなち、僕を縛って拘束した。
《まさか、先生だったとはね》
オサムの口から懐かしい母星の言葉が発せられた。オサムは、僕と同じ母星の生物のようだ。彼は、僕に事の経緯について話し始めた。
4
僕がこの星に逃げこんだ後、暫くして彼も母星から僕を連行するために、僕の潜伏している凡その座標を割り出した。そして、僕と同じようにこの星の生物にメタモルフォーゼして、オサムという名前で僕の学校に潜入してきたようだ。
とはいえ、互いにメタモルフォーゼをしている以上、そこから互いを探知するのは困難である。そこで、彼はクラスメイトのミチオがいないときに、ミチオにメタモルフォーゼし、奇行を働き、自らミチオが外部の星からきた生物であるかのような噂を広めることで、潜伏者がその噂に食いつくのを待ち、潜入者が食いつくことで現れる行動を観察して、潜伏者をあぶり出そうと考えていたようだ。
結果、僕は彼の起こした一連の騒動に食いつき、彼にあっさりあぶり出されたわけだ。
僕はその後、この星の名残惜しさを感じる間もなく彼とともに母星に連行された。
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内容に関するアピール
①どのようなキャラクター関係か
前半は、本稿の中心人物であるミチオをめぐって、さまざまな人物が語る回想の中の異なる時間軸で、オムニバス形式にミチオの噂の真相に迫っていく学園ミステリー調でキャラクターを描き、後半でSF的な話に急進させ、キャラクター関係が大きく転換するように書きました。
②その関係がどのように読者を楽しませるか
ミチオを作中一度も実体として登場させず、第三者の回想からミチオと疑心暗鬼になるキャラクターたちとのミステリーという物語を装いながら、後半は二匹の宇宙人の物語だったというある種の裏切りを読者の皆様が楽しんでもらえると期待しております。
③その関係がSFとしてどのような見るべき点を持つか
私自身、SFに関してはまだまだ初心者なので、どのような話の構成がSFとして既に使い古されているものか把握できておりません。その点、本稿のような、オムニバス形式の学園ミステリーがSF的な内容に転換されていくという構成が、これまでのSFフォーマットの中で、新規性のあるものであればうれしく思います。
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