そして<ダンスフロア>はいっぱいになった

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梗 概

そして<ダンスフロア>はいっぱいになった


「どうしても、その娘と結婚したいんですね?」
「はい。本当に好きになってしまったんです。金で解決できることなら、いくらでも払います。だから、どうにか・・・」
 今回の依頼人は都内大手上場企業に勤める、高学歴高年収の32歳男性だ。対象となるのはその会社に3か月前に中途で入社してきた28歳の可愛い―確かに写真を見せてもらった限りでは、男受けしそうな顔ではある―女性で、彼女に好意を寄せいている男は同じ社内に大勢いて、依頼人は毎日、気が気でないらしい。だからこそ、ここに駆け込んできたのだという。そう、私が勤める株式会社Uの東京オフィスへ。

 申し遅れてしまったが、当社の説明を少しだけ。当社は主に男性クライアントからの依頼に基づき、依頼者と意中の女性とを結縁させるためにあらゆる―そう、文字通り「あらゆる」―手段を採る事を主要事業とする。当社のウリはなんといっても、法律を厳密に適用してしまえば違法な行為かもしれないが、法律なんぞどこ吹く風と、結縁させるためには強引な手段をとる事でここまでのし上がってきた会社だ。そこで私は主任コンサルタントを務めている。


 私は依頼人の話が終わる前に、この件をどう結着させるかというプランを頭で描き終わっていた。
「まずは、私がSNSを通じて彼女に接近しましょう。それで<トンボ>に乗ってみないかと誘ってみます」
<トンボ>が<世界ザ・ゲーム>で流行り出したのは2,3年ほど前からだろうか。もちろんそれまでも、<世界>内で空を飛ぶことは可能だった。しかし飛行機は一般個人が趣味で手を出せるような値段では無い。そこで画期的な重力制御装置を開発したG社の低価格飛行機、通称<トンボ>は爆発的に普及した。今では30歳前後の女性にとって、<トンボ>でのツーリングはメジャーな趣味だ。
「私はその娘とツーリングに行きます。そして、意図的に<闇網ダークウェブ>のアドレスを<トンボ>のナビに打ち込んで、<闇網>の島、<大鳥ウェーク島>へ漂着します」
「私はどうすれば?」
「あなたにはあらかじめ<大鳥島>へ行ってもらうんです。<トンボ>で誤って<闇網>にアクセスしてしまい、<大鳥島>に漂着してしまう事故はよくあることです。無人島で3人だけ。もちろん、私は徐々にあなたたち二人とは距離を取り始めますよ。実質的には無人島で二人っきり、という訳です」


 というシナリオでうまくいくはず「だった」。そう、確かに「だった」のだ。でなければ、私が会社で主任まで昇進するわけがない。
 誤算だったのが、女は女で異様にプライドが高く、<大鳥島>で依頼人が散々尽くしてやっても何の感謝もしなければ、依頼人の男は男で変に平等屋で、ターゲットの女だけに親切にしてやればよいものを、私にもやたらと親切にしてくるのだ。
 それだけではない。依頼人と女がくっつくのに時間がかかりすぎるせいで、せっかくの無人島に新たな<トンボ>に乗った魑魅魍魎のような漂流者が次から次へと押し寄せてくるのだ。漂着をした直後に、女の方をナンパしてくる男が空から落ちてくるかと思えば、やたらと顔が整っているせいで、依頼人が一目惚れしてしまう女が砂浜に転がっていたりする。このままでは依頼人を結縁させる前に、この小さな島が人でいっぱいになってしまう。
 その前に、私はどんな強引な手段を使ってでも依頼人を目標と結ばれるようにしなければならない。その目算は既に整っている。どんなお話でも、王子様とお姫様は最後には結ばれるものだ。

文字数:1445

内容に関するアピール

イメージとしては、オースター『幽霊たち』+小林尽「スクールランブル」with高橋留美子「らんま1/2」を考えてます。つまり、(少年誌的な意味においての)「ラブコメ」を書いてみたいということです。

ラブコメの基本構造は、主人公の男女は惹かれ合っているのだが、それは表には出さずに喧嘩ばかりしている反面、主人公の男は異様にモテて多種多様な女性が言い寄ってくることで生じる女-男-女の三角関係にあります。が、普通のラブコメにおいては主人公達に言い寄ってくる女(もしくは男)は話の中で一度フィーチャーされた後は、物語から「退場」(例外的な場合を除き、物語内でメインキャラクターとしては現れない事)していくのに対し、小林尽「スクールランブル」が極めて面白いのは、フィーチャーされた男女は物語から「退場」することなく、物語内に「滞留」し続けることで、話が進むに従って同時に登場するキャラクターの数が幾何級数的に増大していくことにあります。

私はこれをSF小説という枠組みで再現したいと思います。女-男-女の三角関係をメインとしつつも、男女を引き寄せていき幾何級数的に人物が増えてしまう<闇網>内の<大鳥島>という無人島の禍々しく且つドタバタ的な魅力を描写したいと考えてます。

梗概では導入部分に割きすぎてしまったため、後半から結末をかなりざっくりとしか書けませんでしたが、実作ではしっかりと書ききる所存です。

文字数:595

課題提出者一覧