Hello,Mr/Ms.Hopscotch

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梗 概

Hello,Mr/Ms.Hopscotch

 

<前書き>

 

■定義1.

本テキストは、量的には1つの単体である彼/彼女の人生について記した、全64章からなる断章である。

 

■定義2.

あなたは本編の各断章末尾に記された分岐条件に従い、このテキスト群を飛び石のように辿りながら読むことができる。

 

■定義3.

いっぽうであなたは、各条件をまったく無視し、冒頭あるいは末尾からの通読、偶数あるいは奇数だけの拾い読み、ダイスの出目による選択など、あなたが定めた任意のルールに従って読み進めてもよい。

 

■定義4.

彼/彼女に関する年齢・性別・国籍・服装などの諸条件は、すべてあなたの任意とする。ただ便宜上、本テキスト上におけるその名称については『ホップスコッチ氏』と仮称する。もちろん、必要に応じて名前を読み替えてもかまわない。

 

■定義5.

ひとつの真実として、ホップスコッチ氏は語り手であるわたしの友人であり、同時にあなたがこれまでに出会った誰かである。それは遠い昔の、今となっては顔も思い出せない知り合いかもしれないし、旅行先で一度挨拶しただけの人かもしれない。

 

■定義6.

これまで出会った人たちの人生について、あなたはどれほど多くを知っているだろう。すでに忘れてしまった人はもちろん、良く知る友人や家族でさえ、あなたがいない瞬間に思いもよらぬ体験をしている可能性は常にある。

 

■定義7.

ホップスコッチ氏は故人である。

本テキスト群は追悼であり、また同時に、さまざまな彼/彼女のヴァリエーションをあなたの記憶から呼び出す試みでもある。

彼/彼女は確かに生きていた。あなたが覚えていても、いなくても。

 

<本編>

 

■断章1

ホップスコッチ氏が最初の事件に遭遇したのは、凍てつくような寒い日であった。いつもより早く目覚めた彼/彼女は、自宅ではなく、奇妙な部屋にいることに気付く。

結論から言うと、ホップスコッチ氏は異星人に調査サンプルとして誘拐されていた。片言の母国語を喋る異星人に、テストと称した酷使を受ける日々が続く。

しかし、ホップスコッチ氏は耐えた。そしてどうやらその異星人らが違法に異星生物を蒐集する無法者であるらしいことに気付き、親交を築いた他の誘拐生物らと反乱を惹起。すべての囚人を解放し、誘拐犯をしかるべき機関に引き渡すことに成功する。

その後、ホップスコッチ氏は銀河連合政府からの表彰を辞退して故郷への帰還を要求。連合政府は彼/彼女の功績をかんがみて時間遡行装置の使用を認可し、ホップスコッチ氏は肉体を若返らせたうえで誘拐から1ミリ秒後のベッドに帰還を果たす。

もちろん、若返った体は誘拐の記憶も失っていた。彼/彼女は、詳細の思い出せない奇妙な夢を見た実感を抱きながら、再び眠りに落ちた。

 

・もしあなたがホップスコッチ氏を豪快な人物とイメージしたなら、断章4に進むことができる。

・一方で、もしホップスコッチ氏が聡明な人物であるという印象を抱いたならば、断章10に進んでもよい。

 

(以下省略)

文字数:1200

内容に関するアピール

①登場キャラクターとその関係性

登場するのは、「ホップスコッチ氏」と「あなた(読者)」です。テキストによって喚起された読者のイメージや記憶がテキストにフィードバックされ、ホップスコッチ氏の辿った人生、ひいてはホップスコッチ氏というキャラクターそのものが形作られていきます。

②その関係性がどのように読者を楽しませるか

ホップスコッチ氏という人物を「かつて読者が出会った誰かかもしれない」と仮定することで、昔は仲が良かった人のこと、ふと出会って印象に残った誰か、いまはもう会えない大切な人などについて「あるいはこんなこともあったのかも」と思いを巡らせるのは、ささやかながら楽しいことなのではないでしょうか。それはまた同時に、これから出会う誰かについても前向きな期待を抱かせるものであると思います。

③その関係がSFとしてどのような見るべき点を持つか

着想の根底には、フリオ・コルタサルの『石蹴り遊び』、ケヴィン・ブロックマイヤーの『〈アドベンチャーゲームブック〉ループ・ゴールドバーグ・マシンである人間の魂』や、CAROLINE M. YOACHIMの『Welcome to the Medical Clinic at the Interplanetary Relay Station』といったゲームブック形式の小説があります。

これらの小説は、読者自身に物語の進行を委ねる点ではある程度自由である一方、あくまで世界観の軸足は作品側にあり、要するにバラバラに置かれた紙芝居をどの順番で見るか、というものでした。

もっと自由に、ストーリーの進行だけでなく、世界観やストーリーそのものを、読者側の個人的なイメージや記憶に寄せることはできないか……と試みるのがこの小説であり、その点に一定の新規性があるのではないかと思います。同時にこれは、文字情報のない小説だからこそできる表現でもあります。

文字数:774

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