外に出てみると

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梗 概

外に出てみると

都内の河原に暮らす小暮弘和は、隣に住む自称・宇宙人の座義博から新たな発明品を見せられる。一見、普通のスマホだが、彼によればリムを言語化する装置だという。座が試しにこの河原に住みついた野良猫のスバルを撮影すると、そろそろ気づけよ、と画面に表示される。スバルは小暮を見ていた。

リムは銀河系で主流の精神交感だ、と座はいう。彼が街中の動植物から集めた情報によれば、銀河系の住人はみな互いの精神状態を変化させることで意思疎通をするらしい。

小暮は強く疑うが、座が持病を悪化させて亡くなり、スバルの発するリムを読んでいるうちにリムを信じるようになる。スバルが小暮に送ったリムは、自称・銀河系民のデュウが各エリアを巡ったのち、全住人にむけて送ったものだった。それによれば、リムは彼が銀河系を統一するために整備した精神交感の方式であり、全住人に同時に語りかけることができる精神ネットワークなのだが、地球の人間だけは精神交感を放棄しており、いつまでも幼い意思疎通方法の言語に頼ってばかりで困るとのこと。人間はすでに精神が十分発達しているにも関わらず、いまだに物質を介した記号の部屋にこもりきりで、とても銀河系の成体としては認められない、ぜひ彼らにもリムを教えるべきだ、というデュウの演説に銀河系の住人たちは賛同。

小暮はスバルが地球を代表して人間を弁護していたことを知り、自身もリム習得を目指して、精神状態を形成するために体をくねらせ、叫びながら動き回る。通行人に笑われ、何度か通報されるが、その都度スバルが爪を立てる。

三年かけてリムを習得した小暮は、はじめて銀河系の住人たちに語りかける。

「あの、地球は地球でうまくやるんで、ほっといてくれません?」

デュウや住人たちは小暮のリムを笑う。

しかし、「精神もネットワークにしちゃったら言語と同じじゃないすか?」と小暮が訊くやいなやデュウは激怒。銀河系全体の意志と称して人間を絶滅させようとする。

デュウは次第に銀河系住人の反感を買う。

人間への評価が銀河系民に共通の価値観であり、デュウがそれを理由に人間を滅ぼそうとするなら、少なからぬ銀河系民が反対するいまとなっては考えを改めるべきだ、とスバルが発すると、銀河系民はスバルに同意しはじめる。デュウは暴れだす。

小暮は地球上で他にもリムを受信できる人間を探して四方八方にリムを送る。予想外の大人数が彼に応じ、家や職や健康や自尊心や居場所をなくした人々が一斉に小暮に倣い、体をくねらせ、リムを送る。「私たちには名前がある。私たちは宇宙に生きている」これは座義博の言葉だった。

銀河系民も次々と地球にやってきて、世界中の大都市で通行人に乗り移り、幼体の頃の名前を久しぶりに叫び、体をくねらせる。動植物に乗り移る者もいる。

地球に大集合した銀河系民の様子を見て、デュウも人間の体を借りて名前を発音し、輪に加わり、宇宙人として踊る。

文字数:1193

内容に関するアピール

言葉は人間社会をかたちづくり、いま自分がいる場所を決めてくれます。そんな言葉の約束事からすこし離れた場所に、主人公と猫は住んでいます。猫は人間社会とほぼ無関係ですが、主人公は少なくともそれなりの関わりがあります。ところが、じつは猫のほうが銀河系“社会”とそれなりに関わっており、主人公はこれまでそんな銀河系社会とはほぼ無関係に生きてきた、ということが判明します。

特定の意味を伴う精神状態のつくりかたを学ばせるため、猫は主人公に様々な言動を要求します。この言動は人間社会とは無関係なものなので注目の的となり、SNSにもアップされまくりますが、主人公が孤立するのを猫がすこしでも防ごうと、SNS映えしない凶行に及びます。友情が生まれます。人間社会ではこの猫に凶暴な印象がつきまといますが、それにより、猫によるリム(実質的に言語化した精神交感)の理知的なやりとりがいっそう際立つかと思います。

文字数:393

課題提出者一覧