サイバー・パン・パン・パンク

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梗 概

サイバー・パン・パン・パンク

<アキバのジュリ>が死んだというニュースは東京中の“特区”関係者たちに衝撃をもって迎えられた。2030年、フネの科学館(現:フロの科学館)を拠点にサイバーソープ嬢たちが中心となって蜂起した『りんかい戦争』以降、すっかり沈静化したように見えた“特区”同士の勢力争い。しかし、実際には<アキバのジュリ>というカリスマ嬢の存在により、辛うじて均衡が保たれていたに過ぎなかったのだ。今、10年ぶりの戦争が始まろうとしていた。

 

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「東京パンパン.net」のエースライター<逆算の岡部>こと岡部茂は、何の取り柄もない男だったが、風俗で当たりを引く才だけは確かだった。その日も、嬢の求人募集サイトから良質な店を逆算し、<ダイバータウン>へと向かっていた。ダイバータウンは、2030年の蜂起を経て、特殊風営法戦略特区、いわゆる<パンパン特区>に認められた、比較的新しい色町だ。岡部はその一角に店を構えるサイバーソープ「ラブラブダイバー」の暖簾をくぐる。

 

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嬢と客がプレイ前に電子ドラッグカプセル<相思相愛>を飲むのが、最近のサイバーソープのセオリー。互いの神経回路を、カプセル内のナノマシン経由で部分的に接続し「互いの感覚が相手に共有される」状態で行為を行うと、悪魔的な快感が得られるのだ。

 

<ユーコ>と名乗る嬢と岡部が<相思相愛>を飲み干し、いよいよサービスタイムが始まろうとしていた頃。夜のレインボーブリッジを、サラブレッドの群れが駆け抜けていった。

 

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それは、一瞬の出来事であった。レインボーブリッジを渡ってきた騎馬民族風の女たちが<ダイバータウン>に雪崩れ込み、あろうことか行為中の加藤とユーコの部屋に攻め入ってきたのだ。部隊を率いてきたのは<ミコスリ=ハン>。競馬場の郊外に出来たパンパン特区<オーイマチ>を治めるリーダーである。ハンは2人を捕獲すると、毒にも薬にもならない、力の抜けた不快なマッサージを始める。<オーイマチ>名物のぼったくりマッサージだ。

 

「気持ちよくねぇぇ」という互いの不快感と怒りとが<相思相愛>を通じ増幅され、頂点に達した時のことだった。湯船に貯めていたローションが、まるで命を吹き込まれたように動きはじめ、<ミコスリ=ハン>たちの口に飛び込んだのである。彼女たちが溺れかけて気絶すると、ローションは湯船へと戻っていくのだった。それを見た加藤は驚く。ローションを自在に操る能力は、死んだはずの<アキバのジュリ>の得意技なのだった。

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各々のパンパン区を治めるリーダーたちは、みな、異能のチカラを持つという。加藤も聞いたことはあったが、実際に見るのは初めてだった。「馬と会話ができる」という<ミコスリ=ハン>の能力は結局、たいして発揮されることのないまま終わったが、さっき見たローション技は、まさに異能のチカラだった。

 

ぽかんとしている加藤に、ユーコは自分の正体が<アキバのジュリ>であることを伝える。能力が衰え始めたことを機に、死んだことにして前線を退こうとしていたというのだ。だが、どうやら生きていることに気付いた敵は、彼女にとどめを刺しにこようとしているようだ。

東京中のパンパン区のリーダーたちが、台場に集結しつつあった。

 

ユーコは、加藤と<相思相愛>を使って、同じように気持ちが昂ぶった時だけ、昔のチカラを取り戻せることを利用し、彼女たちとの最後の「戦争」を始めることを決意するのだった。

文字数:1514

内容に関するアピール

風俗嬢と客の気持ちが、一緒に昂ぶって、ひとつになった時だけ強くなれる……という特殊な関係性で、主に笑いを取る方向で読者を楽しませられればと思っています。

文字数:76

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