蜘蛛と花火

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梗 概

蜘蛛と花火

人類は地球外のいくつもの惑星に移住し、街を形成していた。地球上と同様の生活を送れるだけの科学技術を発達させた。惑星移住が当たり前となった時代は昔の事で、既に各惑星ごとにコミュニティの特徴や文化の違い、言語の独自発達があった。だけど、概ねどの惑星間でも、人類という共通意識は平和的なもとして存在し、異惑星交流も盛んに行われていた。ただ、地球と惑星では、本家と分家のような若干の優劣意識もあった。

異星人との交流もあった。

 

宇宙船を住居とした宇宙空間でのノマド的生活もシステム化して若者には人気だった。マリが暮らす宇宙船は、マンションで言う単身者向きで、個人単位で生活できるようになっている。

マリの趣味は、おしゃれと宇宙俳句とスナック菓子を食べながら地球上でストックされた映像を観る事だった。昨日も遠くの宇宙花火が窓の外に見えた。

服は人工蜘蛛が編んでくれる。おしゃれ好きのマリにとっては、人工蜘蛛は相棒だった。マリの世代は、言葉を覚えるのよりも先にプログラミング言語を覚えた世代と言われるぐらい、プログラミング能力に長けていた。だから、人工蜘蛛に新しい服を創るようにプログラミングを施すのは簡単な事だった。その日もマリは、人工蜘蛛にプログラミング調整をした。出来上がった新しい服のイメージは、この間観た映画に出ていた、仮面舞踏会で主人公が着ていた、綺麗な明るい赤色のドレスだった。

 マリはそのドレスを着て、パーティに出掛ける。そこで出会った男の子トムと仲良くなる。トムは他惑星出身だったけれど、世代が同じで、意気投合する。マリはトムと連絡先を交換した。後日マリの宇宙船に宇宙宅急便で小包が届く。中には青い缶詰が入っていた。マリはそれが今流行りの宇宙缶詰である事がすぐにわかった。テクノロジーが進むと、アナログな缶詰という手段での伝達の方法にノスタルジーを感じて流行っているのだった。

マリは早速缶詰を開けた。中には宇宙アメーバが入っている。そこに惑星の土を入れると、マリは静かにかき混ぜた。土は翻訳のためのメディウム作用となる。マリの惑星の言葉に翻訳されたトムからの伝言を宇宙アメーバは再生する。「次の日曜日、惑星白い花で待っているよ」。

マリは新しい素敵な約束が出来たその日、嬉しくてよく眠った。

その間に、宇宙アメーバはこっそりと缶詰の中を抜け出した。缶詰の注意書きをよく読まなかったマリは、蓋を閉め忘れていた。缶を開けたままだと、中に充満してあった宇宙アメーバをコントロールしていた薬剤が蒸発すると、抑えられていた宇宙アメーバ本来の思考が蘇るのだ。宇宙アメーバが辿り着いた先は人工蜘蛛だった。宇宙アメーバは人工蜘蛛のプログラミング回路と缶詰の残留薬剤の翻訳機能を利用して、起きて来たマリにしゃべり始める。

 

「宇宙アメーバ缶詰工場に囚人アメーバとなって捕らえられている仲間を助ける為に、力を貸して欲しい」

文字数:1196

内容に関するアピール

人工蜘蛛や宇宙アメーバ缶詰など、SFならではの特殊なガジェットで、読者を楽しませ、尚且つ、それが主人公にとって途中から別の関係が生まれて、話が展開する設定を考えました。SFとしての視点は、生命がいれば、調和は次第に対立を生み、必ず戦争が起きるという宇宙法則は普遍的で、それらの利用と登場人物らがどう立ち向かうかにあります。

宇宙アメーバ缶詰工場:常に宇宙地図で、宇宙戦争がどこで起こっているかを監視している。エネルギーの発生システムを分析し、熱量によって、宇宙戦争(宇宙花火に見える事もある)の規模が判る。捕獲対象をアメーバ程度に設定している。そして、戦争が終焉したころに、勝利アメーバと交渉し、囚人アメーバを買い取っている。アメーバ全部を乱獲せずに、差し出された囚人アメーバのみを捕獲しているのは、表向きの商売として成り立たせるために、現行の宇宙平和法則を守る形をギリギリとっているからだ。

文字数:395

課題提出者一覧