ラリルレ探偵団

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梗 概

ラリルレ探偵団

世界は○族と□族に二分され、長いこと冷戦状態にあった。

まるいものに囲まれて暮らす○族は、○こそが自然の摂理に則った崇高な形かつ概念だと信じ、○を崇めている。一方、あらゆる人工物をしかくくつくる□族は、□こそが人類の文明発達の証であると信じ、□を崇めている。□族の人々がもし○族の世界に入り込んだなら、たちまち眩暈を起こしてしまうだろう。

あるとき極東の島国の、○族が暮らす街の公園で、□いペンダントが発見され、□族のスパイが紛れ込んでいるのではないかと大騒ぎになった。とは言え、これまでにも各地で□族のスパイ疑惑は浮上しており、しかしいずれも一時的な噂話に終わったため、今回もそのような一過性の騒ぎだろうと、皆心のどこかで思っていた。

 

この街に住む小学四年生の雷太は、「オレたちで□族を見つけ出そうぜ!」と意気込み、探偵団を結成した。メンバーは「雷太ライタ」、転校生の美少女「リン」、雷太の愛犬「ルン太」、雷太の親友「レイ」の三人と一匹で、頭文字をとって〈ラリルレ探偵団〉と名付けられた。

探偵団結成に浮かれ気分の雷太は下校途中、手から無駄に光線を放ち、空き缶を球体に変えて蹴飛ばした。それが玲に当たると、玲は「やったな」と言って、手に持っていたダンゴムシを雷太に投げつけた。二人の間でダンゴムシ合戦が始まる。いつもの光景だ。

しかし、雷太と玲を横目に、凛は内心焦っていた。凛は例のペンダントを落とした張本人だった。□族の外務省担当官からは、すぐに動くと却って怪しまれるので、ほとぼりがさめるまでしばらくそのままいるようにとの通達があった。だから平然を装って学校に通っているが、〈ラリルレ探偵団〉に加えられてしまい、凛は気が気でなかった。

 

翌日、早速探偵気取りの雷太は、得意顔で推理を披露した。その一、犯人はメガネをかけている。眩暈防止のため、○が□に見えるVRメガネをしているはずだから。その二、大人である。子どもにはスパイなんてできないから。その三、地味な服を着ている。スパイは目立っちゃいけないから。
 凛はメガネをかけていないし(VRコンタクトレンズをつけている)、子どもだし、ピンク色のスカートを履いている。雷太の推理が見当違いで一安心した凛は、「雷太くん、すごいね!!」とニッコリ微笑んだ。「よっしゃ!」と顔を赤らめる雷太。

その日の放課後から〈ラリルレ探偵団〉は、公園での聞き込み調査を開始した。しかし、ベンチに座っている白髪のおじいさんは、何を訊いても謎の独り言を繰り返すばかり。ミニスカートにハイヒールのお姉さんは、ルン太を撫でながら彼氏の愚痴をひとしきりこぼすと、「じゃあね、頑張れ探偵団」と言っていなくなってしまう。彼女は必ず道路の白線の上を歩くという習性があり、それが謎だ。夕方に現れる若い男は、すべり台の上で体育座りをして、急に泣き出したりする。捜査は難航した。

 

〈ラリルレ探偵団〉は、公園での聞き込みと並行して、ルン太の散歩を日課とした。「犬なら□族のにおいを嗅ぎつけるかもしれない」という玲の発案だ。
 ルン太は散歩の途中でよくガラクタを拾った。彼らは地図上にその場所を記していった。しばらく続けると、地図上にきれいな円が浮かび上がった。この円の中心に何かあるに違いないと確信した彼らは、その場所へ向かう。

そこは空き地だった。草陰にたくさんの落とし穴があり、彼らは次々と穴へ落ちていった。長い通路を抜けると、三人と一匹は再び広い空間で合流した。不安そうな三人を勇気づけるようにルン太が一吠えすると、それに応えて低い唸り声が響き渡った。
「ここはダンゴムシ帝国である。いつもダンゴムシをいじめる君たちに、今日は仕返しをしてやるつもりだ。覚悟せよ。グハハハハ」
 唸るような笑い声がやむと一瞬の沈黙があり、突如ものすごい地響きがした。現れたのは、丸まった巨大ダンゴムシたちだった。
 ゴロゴロと転がってくるダンゴムシたち。逃げ回る雷太と玲。吠えまくるルン太。その中で、凛だけがじっと立ったまま動こうとしない。
「凛、危ない! 逃げろー!」
 雷太が叫んだ瞬間、凛の手から一筋の光線が放たれた。すると、真ん丸の巨大ダンゴムシたちが次々と立方体に変わった。□くなったダンゴムシたちは、ゴトッゴトッと二三回転してから、ピタリと動きを止めた。
 雷太と玲は、凛が□族だということを知って愕然とする。凛は、□族には決して侵略の意志はないことを力説する。むしろ○族との共生を望んでいるのだ、と。凛はじきに帰ることになる。凛を信じた雷太と玲は、いつか○族と□族が一緒に暮らせる世の中になることを願い、再会を誓った。

この時ダンゴムシ帝国の土壁には、約束の印が刻まれた。□の中に○を描いたシンプルな印である。これが後に、○族と□族が統合を果たし建国した、日本という国の国旗となった。

文字数:1996

内容に関するアピール

□族を探し出そうとする探偵団の中に、実は当の□族本人がいるという設定にすることで、もともと当てにならない推理が、ますますズレていくようにしました。小説の初めから終わりまで、ズレた推理がストーリーを進めていきます。そして推理がズレ続けた結果、なぜか当初の目的が達成される(凛が□族であることがバレる)という形にしたいと考えました。犬のルン太(元気いっぱいのゴールデンレトリバー)は、ストーリーに異物を運んでくる役目で、ズレ続ける推理に大きなジャンプをもたらします。

ところで、〈ラリルレ探偵団〉の年齢を小学四年生に設定したのには理由があります。
 小学四年生(十歳)というのは、人生の中で最も特異な年齢だと思っています。それは、誰よりも寛容な認識能力をもっているという意味においてです。小学校低学年の頃と比べると、段違いに知恵がついてきて、現実世界のこともよく分かっている。けれども、サンタクロースを信じることができるくらいには、まだまだ非現実的なことも受け入れられる。○族と□族に世界が分断されているという現実の社会にも興味を示し、かつダンゴムシ帝国という非現実的な出来事をも受け入れられるのは、小学四年生という年齢をおいて他にないと考えました。

世の中には「変な人」という目で見られる大人たちが一定数いますが、そのような人たちとコミュニケーションを取り得るのもまた、小学四年生の子たちではないかと思います。「変な人」の脳内ではきっと思いも寄らない論理や思考が働いていて、小学四年生であれば、それを受け入れる力をもっているのではないか。〈ラリルレ探偵団〉の公園での聞き込み調査は難航しますが、明後日の方向へ進む「変な人」たちとの会話に、歯止めはかけないつもりです。これもまた、推理をズレさせる仕掛けのひとつになればと思います。

文字数:760

課題提出者一覧