梗 概
僕のおじさんヴァンパイア
僕が小学5年生だった頃、僕はいつもおじさんと一緒だった。
僕のおじさんはヴァンパイアだ。おじさんがヴァンパイアであることを周りに打ち明けた時は、そりゃあ怖がられたさ。でもおじさんはがんばった。別にみんなのことを襲ったりしないよ、血吸わないよってことを周りの人に語り続けた。地域の活動にも積極的に参加したし、朝は早く起きて河川敷のゴミ拾いに出かけた。そうしているうちにみんなはおじさんに信頼を寄せるようになった。特に子どもたちから好かれるようになった。爪とキバを尖らせて天井からぶら下がりながら「血ぃ吸ってやろうかぁ」なんて、おじさんなりのギャグを披露することだってできるようになった。
おじさんは35歳だけど、身体は「生」のままだ。普通の人は20歳になったらサイボーグの免許を取ってサイボーグになるんだけど、「おれはヴァンパイアのままでいたいんだ」って、サイボーグにはならなかった。サイボーグになるとヴァンパイアじゃなくなるんだって。
ある日、僕の友達がおじさんのマネをして壁を歩こうとして、すべって転んで頭を打った。そりゃあだって君はヴァンパイアじゃないもん。でも小学校のPTAのサイボーグおばさん達は、「子どもの前で壁を歩くのは控えていただけないでしょうか……」とおじさんにお願いしてきた。おじさんはとても落ち込んだ。僕はおじさんのために、おじさんの大好きなレバニラ炒めを作った。でもおじさんの顔は暗いままだった。その夜、おじさんは家に帰る途中で事故にあった。目からライトをつけずに飛んでいた、飲み会帰りのサイボーグの人にひかれたそうだ。おじさんはすぐに病院に運ばれた。僕も急いで病院に向かった。
おじさんはかなりの重態だった。出血量が多すぎて献血が必要だったんだけど、生身のヴァンパイアのおじさんに合う血液はなかった。助けるためには、おじさんをサイボーグにするしかなかった。でもサイボーグになったら、おじさんはヴァンパイアじゃなくなってしまう。
「せめて、サ、サイボーグヴァンパイアっていう道はないんですか!?」
僕はサイボーグのお医者さんに必死に訴えた。
「今の医療じゃあ、無理だね」
結局おじさんはサイボーグにされてしまった。命は助かったけど、おじさんはヴァンパイアじゃなくなってしまった。とても悔しかった。家に帰って、ベッドの中で声を上げて泣いた。気がつくと朝になっていた。一晩中泣いていたせいか、鏡を見ると目が赤くなっていた。そして口からキバが出ていた。手の爪も伸びていた。
何日かして、おじさんが入院している病院に行った。病室に入ると、カーテンの向こうにおじさんの影が見える。今思えば、どうしてあんなことを言ってしまったんだろう。
「おじさん、僕、ヴァンパイアになったんだ」
「……そうか」
おじさんの声に混じって、金属がこすれるような音が聞こえてきた。僕が鼻をすすると、おじさんがカーテンのすき間から腕を出してきた。
「血ぃ、吸ってみるか?」
「え?」
「まだ少しだけおれの血が残ってるんだ。どうせだったら、お前に全部吸ってもらいたい」
僕はおじさんの腕にゆっくりと歯を立てて、「ちゅう」と音を立てて血を吸った。1秒で吸いきってしまった。僕はその場から走って逃げ出した。口の中がしょっぱかった。
今、僕は大人になって、大学でサイボーグヴァンパイア技術を開発するため研究している。結婚して奥さんもいる、奥さんは僕がヴァンパイアであることを喜んで受け入れてくれた。そんな彼女のお腹には赤ん坊がいる。いつの日かこの子もヴァンパイアになる日が来るのかもしれない。
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内容に関するアピール
ファンタジーSFだと思うものを書いてみました。この世界では、人は20歳になると車の免許を取るみたいにサイボーグになることができます。ほとんどの人はサイボーグになって、空を飛んで移動したり、遠くの人と会話したり、動画を視聴したりします。梗概では触れませんでしたが、「僕」の(母)親にはヴァンパイアは発現せず、20歳で普通にサイボーグになりました。実作ではサイボーグとかヴァンパイアとかに関して、理論付けをしてみたいと思います。
自分の生き方は自分で決めるものですが、普通は社会で多くの人が実践していることにただ従ってしまいます。それはそれでいいんです。新しい生き方をしようとするには、それこそヴァンパイアが人の血を吸うように、周りの人に苦労と心配をかけてしまいます。でも、それを乗り越えた先に、本当に自分を誇らしいと思えるようになるのではないでしょうか。そんなことを子供向けに書けたらと思います。
文字数:398