高校に入学してすぐ不登校になった。クラスに馴染めなかったし、親からは家は裕福ではなく弟もいる。男には大卒の肩書きはあった方がいいが女にはなくてもいい。進学したければバイトして自力で行けと言われ、何故という気持ちが溢れ部屋から出れなくなった。私が悪いわけじゃないと思う。
　でも、親から私への愛情はあった。最近設立され、九月開始のオルタナティブスクールへ転校しないかと提案があった。その学校のHPで現在の公立高校よりも高額の学費が必要と知る。いいのと尋ねると苦渋の決断といった顔で仕方ないと言うので、私は少しスッキリして転校を決め、バイトも探すことにした。
　学校はシュタイナーなどの有名教育法を実践するわけではなく、実験校としての特色が濃いようだった。開始早々「階級1.5」というプログラムを実施するという。一定期間、自分で全てを決定する立場と、人に従いサポートする立場の二つの階級を作り、立場の違うもの同士ペアになり課題をこなす。全三回、立場はくじで決定され、全員両方の立場を経験する。一部に反対の声もあがったが、万全のサポートを強調され実施された。
　一回目。私は決定する方の立場だ。サポート役は同じクラスに双子の兄もいる男子だった。私の成績がそのまま彼の成績となることもあり、私の言うことは全て従い、相談にものってくれ、休みがちではあったがありがたい存在だった。この子の分も頑張らないとと勉強に身も入り、とても充実していた。
　二回目ではサポートする立場となった。サポートするのは前回のサポート役の兄だ。私は弟のやり方を参考にしつつ工夫もしてサポートした。少々強引なところは面倒だったが、色々な発想が飛び出してきて生き生きと指示する姿はかっこよかった。終わる際に、私にありがとうと伝えてきたので、弟のやり方を参考にしたと返すと、優しく笑うので私は兄のことが好きになる。
　三回目は間をあけて実施する。希望の立場についてアンケートを取るので考えておくようにと告知された。アンケートの日が近づくと、一部からの反対の声も強くなっていった。私は反対派の階級の固定化を推進するのかとか、強要は良くないもっと自由に等の主張を聞いてもピンとこなかった。立場を選べるならそれだけで嬉しかったのだ。もちろん自立する立場を選ぼうと考えていた。
　反対派について兄と話す。反対があることも含めての勉強かもねと言われて感心した私は好きと伝えてしまう。兄は驚き、サポートして親切にしたのは弟の方だよ、どうして俺なの、顔は一緒でしょと問うてくる。プログラム終了の際に笑ってくれたのが嬉しくてと答えたが、それは弟が誉められて嬉しかったから。弟は病がちで、それを気にしすぎて気弱になっている面があるけど、本当に優しい子なんだ。自立とか目指すならそういう子選んでよ。俺は庇護欲がわく子の方が好きと言い残し去ってしまう。
　半ばパニックを起こして泣いていると、一部始終を見てしまったプログラム反対派の女の子がハンカチを貸してくれ「湧いてくる気持ちって理屈じゃないけど、そう教えられたからそう思ってるのか、習慣だからなのか、実は魂に刻まれているのか、よくわからないよね」と言う。慰めなのかなとは思った。
　気持ちは何も整理できないまま希望提出日となった。が、朝起きたら学校がネットで炎上していた。「階級1.5」が問題視されていて、しかも、そのプログラムは教育法を勉強させたAIによって作成されたものらしい。学校からは説明会を実施すると連絡があった。行ってみることにした。学校の前にはマスコミが来ていて私にマイクを向ける。
「プログラムに対して思うことはありますか？」
私は腹から声を絞り出す。