あなたの罪は赦された

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梗 概

あなたの罪は赦された

信者たちは厳粛な表情で「アーメン」と言って木製の椅子につく。司祭の背後には約3000年前、磔にされたイエス・キリストの像。誰もが今日のミサを心待ちにしていた。その時、静寂を守る神聖な空間に禍々しい声が響き渡った。ざわめく信者たち。声の持ち主は背の高い強面の大男。彼はずかずかと司祭の前に歩み寄っていく。狼狽える群衆のなか、ひとりの信者が声を荒げた。「何の用ですか!」すると男は猛スピードで走ってゆき、その信者を殴り飛ばした。場内に悲鳴が響き渡る。男は司祭ににじり寄ってゆき、胸ぐらを掴む。「俺に聖体拝領をうけさせろ!」
しかし司祭は怯まず、こう諭した。「あなたはまだ洗礼を受けていないでしょう。その代わり祝福を与えることはできます。その前にさっき暴力を振るった信者さんに謝ってください」
すると、さっき殴られた信者が男の元に駆けつけ、何も意に介していないような穏やかな表情で右手を差し出した。な、なんだよ、と男は後ずさりをする。「握手しませんか。わたしはあなたを赦します」「殴ったのにか?」「はい、わたしは日々主に向かってこう祈っています。わたしたちに罪を犯す人をわたしたちが赦すように、わたしたちの罪も赦してください、と。何があったのかは知りません。でも、お願いします。今後わたしにあなたの幸せを祈らせてください」信者の一言が放たれた瞬間、男はその場に泣き崩れた。
ひとりが立ち上がり拍手をする。最初はまばらだったが、やがてすべての信者たちが一斉に立ち上がり拍手喝采を浴びせた。
しかし場内を静寂に戻したのは司祭の一言だった。「泣いても無駄です。謝ってください」
信者たちも男も驚いた顔で司祭の冷徹な顔を見る。司祭は繰り返す。「謝ってください。主が見ていますよ」信者は司祭を宥めるが全く聞き入れてもらえず、呪文のように裁きの言葉は繰り返される。「アヤマッテクダサイ。アヤマッテクダサイ。アヤマッテクダサイ。アヤマッテクダサイ。アヤマッテクダサイ。アヤマッテクダサイ」

その場にいる誰もが、司祭の脳内に人工知能が搭載されていようなどとは思いもしなかった。この罪は神のみぞ知る。

文字数:882

内容に関するアピール

一見ショートショートに見えますが、細かい設定を盛り込むことによって(例えば人工知能が搭載された司祭が増加している未来と、その所以、大男の人生など)比較的長い実作にできるかと思います。シニカルで面白いエンターテインメントを!と決意して書いたのでとても楽しんで取り組むことが出来ました。講師の皆さま、講評よろしくお願いします!

(元・佐藤玲花)3月末まで公募で忙しくなります。

 

文字数:185

課題提出者一覧