その目からは逃げられない

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梗 概

その目からは逃げられない

ここではない、どこか。いつの頃からか、十一歳のユアンはベンという老人の視線を感じるようになる。ベンの家は学校とユアンの家の通り道にあり、学校から帰宅する時間帯にほぼ毎回ベンが家の前にいてユアンを見ている。ベンの家の周りには畑と川があるだけなので不自然に感じる。最初は偶然だと思っていたが、やがて不審に思うようになる。
 ベンは皆から嫌われている、関わるなと両親から言われるユアン。ある日、キャップをかぶったベンが家の前に立って自分を見ていた。少し離れたところからその様子をユアンが見ていると、ベンがかぶるキャップが宙に浮くのを目撃する。それがきっかけでベンと言葉を交わすようになる。彼には特殊能力があり、そのひとつである予知夢が孤立の原因だという。過去に農園に害虫が大量発生することを予知夢で知り、街の人間に伝えたが一笑に付された。その後に発生した害虫で特に甚大な被害を受けた、地主であちこちに農園を持つハリーは、害虫を持ち込んだのはベンだという噂を広めた。ベンは嫌われ孤立する。ユアンはベンを気の毒に思うが、自分と関わると怒られるぞと諭される。その後も下校時間には必ずベンが家の外でこちらを見ている。その目を不気味に感じるユアン。ベンを信じていいのかわからず、マルコに相談する。幼いころからの親友で、父親は街の名士だ。ベンの正体を暴こうと息巻くマルコだが何もわからない。マルコは自らが兄のように慕っているという、父親の秘書デイビッドに相談することを提案する。優しく、気さくなデイビッドをユアンも慕う。
 その日、いつものように一人で学校を出ると、マルコが男に襲われるのを目撃する。デイビッドだった。口を封じようと迫ってくるデイビッド。自宅へ走って逃げるが前日まで降り続けた大雨の影響で足元が悪く、追いつかれる。そこにハリーが現れる。ユアンは近くに彼が所有する農園があったことを思い出す。助かったと思いきや、ハリーがマルコ誘拐の黒幕だった。ユアンは立ち尽くし、迫る二人を恐怖の思いで見つめる。おい大丈夫か、という声が背後から聞こえたと同時に、ハリーとデイビッドの体が宙を吹き飛び、近くを流れる川に落下する。ユアンはそれを驚きの目で見る。川は前日の雨で増水しており、落ちれば無事ではすみそうにない。ユアンが背後を振り向くとベンが立っている。来るのが遅くなってすまないと謝る。訊くとずいぶん前に、ユアンが誰かに襲われるという予知夢を見たが、その日時まではわからなかったという。無事を喜びつつベンはユアンに諭すように言う。今後は不用意にじっと何かを見つめることはやめておいたほうがいい、と。首を傾げるユアンに両親に怒られるから家に帰れと笑って言うベン。ユアンは首を横に振る。これからは自分の意思で会いたい人に会う、とそれまでより少し力強く答える。

文字数:1168

内容に関するアピール

これまでで最も難しい課題だと思いながら書き上げました。

読後、タイトルの意味が反転してると思ってもらえるか。

課題へ応えられたかどうかの判断はそれに尽きると思っています。したがって、このアピール文で反転の内容を説明するのは控えます。

自分がどう思っていようと、どういう狙いで書いていようと、読者に伝わっていないのならそれは書き手の自分に問題があったということだと思っています。

アピールするところを探す方が難しいのですが、課題の「最初と最後でタイトルの意味が反転する」に引っ張られすぎないように、物語としても読めるものを書きたいと思って書きました。

自分が書いたものを振り返るたびにいつも、どこかで見たことあるような物語だなと思って落ち込みます。だから今回も落ち込んでいます。

よろしくお願いします。

文字数:344

課題提出者一覧