梗 概
俺はヒーローごっこなんかしない
辺境銀河の片隅にある鉱山惑星「アンダルシア」。
住民はコバルトを採掘する企業「ボルンSA」の社員とその家族だけである。
ふた月に一度、本社からの定期便が採掘したコバルトの受領と水素の補給にやってくる以外に惑星への出入りはない。
そう、アンダルシアでは水素は貴重品だ。ここの重力は水素を捕まえられるほど強くないから本社からの補給に頼らざるを得ない。
俺はユージン、表の顔は社員の息子で大学生だがその実「シャヴィ」を名乗る水素強盗と戦う正義のヒーロー「アンダルシア・マン」でもある。
必殺技はアンダルシア・パンチ、略してアン・パンチだ。こいつで毎回シャヴィを撃退し、住民たちを守っている。住民たちはお礼に水素を分けてくれる。ありがたい。
アンダルシアはボルンSAの私有地で治外法権だから本当の意味での警察も軍隊もいない。だから自分たちの身は自分たち自身で守らなければならない。自警団の手に余るときは俺の出番ってわけだ。
ある日、セレスタンという若者が俺のところに弟子入りしたいとやってきた。俺に憧れ、アン・パンチを覚えて一緒にシャヴィをやっつけたいのだという。
「俺がやってるのはヒーローごっこなんかじゃないぞ」
と言ってやった。シャヴィとの戦いは生きるか死ぬかの真剣勝負だ。ど素人が気軽に入ってきて何とかなるものじゃない。
しかしセレスタンがあまりにしつこいので、修行と称して無理難題を押しつけ、俺の弟子になりたいなどという考えを棄てさせようと企てた。だがセレスタンはどんな無茶振りにも応じ、あまつさえそれらをクリアして俺のところへ戻ってくる。
非常にまずい。このままつきまとわれたら、実は俺がシャヴィ(表の顔は俺と同じ学生だ)と裏でつるんでいて、シャヴィとプロレスをやって撃退する芝居を打ち、住民からお礼に貰った水素を二人で山分けしているのがバレてしまう。
シャヴィと相談して、俺たちは計画を練った。戦いに巻き込まれたセレスタンが不幸にもシャヴィの新兵器の餌食となり死亡してしまう。そういう筋書きでセレスタンを殺害するのだ。死人に口なし。
しかし計画当日、セレスタンの予想外の強さと本気に、シャヴィは返り討ちに遭って瀕死の大怪我を負ってしまった。
シャヴィは水素の強奪はもうしません、と涙ながらに改心する演技をして、住民に受け入れられた。
俺もシャヴィという敵がいなくなった以上、「アンダルシア・マン」は廃業すると宣言する。
「俺はもうヒーローごっこなんかしない」
本当に辞めちゃうんですか、と惜しむセレスタンに俺は言い、「アンダルシア・マン」のコスチュームを渡した。
セレスタンこそが、「アンダルシア・マン」に相応しいだろう。
文字数:1108
内容に関するアピール
タイトルの意味を逆転させるためには、ある事象に表と裏の面をつくり、表裏を切り替えるときに逆転する概念を見つければいいと考えました。正義vs悪という単純な「表」に対し、正義の味方と悪の組織が裏でつるんでいて、一般市民から金品を騙し取るという構造を「裏」とすればこうなるのかな、と。
最初の「俺はヒーローごっこなんかしない」は「これはヒーローごっこなんかじゃない!(=本物のヒーローなんだ!)」であり、最後の「俺はヒーローごっこなんかしない」は「もうヒーローごっこなんて辞めてやる!(=所詮はごっこ、本物のヒーローじゃない)」となります。難しい課題でした。
※本作に登場する必殺技は、某食品をモチーフとしたヒーローの必殺技とはなんの関係もありません。
文字数:322