ドーリィガールズ・ダイアローグ

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梗 概

ドーリィガールズ・ダイアローグ

「わたしを誘拐してほしいの」とモモが言った。はじめての会話だったと思う、ほんとうは私もひどく動揺していた。「盗難の間違いじゃないの?」 でも、モモの表情は真剣だった。そう見えただけかもしれない。シリコンで作られたマスクは、細かな表情を表現するのに向いていない。

『WGC』は美住香菜が所属しているのと同じ事務所からデビューした八人組のアイドルユニットだ。キャッチコピーは『ハートで繋がるアイドル』、MGCのメンバーは皆正確には生身の人間ではなかった。本来は障碍者が自分自身の介護を行うために開発されたリモート式ロボットを、そのまま外装を整えてアイドルに相応しい外見としたもの。表舞台に出ることが無い八人の操縦者によって動かされている、八体の義体によってつくられたユニットだった。
リーダーのノゾミは頸椎の骨折により半身不随となった元アスリートであることを明かしており、『WGC』は福祉用義体のイメージアップのためという名目での活動を行っている。しかし、義体アイドルに対しての『ダッチワイフ』『障碍者ポルノ』という風当たりもまた強く、香菜もまた、義体アイドルに対してかるい反感を抱いていた。
けれど、モモと舞台での共演を行ったことをきっかけに、義体アイドルへのイメージが転換する。
介護用義体は生活上必要な動作を行うことはできても、関節の可動域の違い、身体バランスのとり方などが人間とは異なり、『人間らしい』ふるまいをすることに困難があった。また、表情を作ることが苦手でもあり、人並みの表現力を得るにも極めて厳しいレッスンを必要としていた。何故そこまでしてアイドルになりたがるのか、と香菜に聞かれたモモは、「キラキラしたかったから」と答える。

答えに納得がいかないままのある日、モモが「私を誘拐してほしい」と頼んでくる。単体での行動許可の下りない義体の外出への口実として、香菜に同行してもらいたいというのだ。モモの目的は、同じ『WGC』のメンバーであるリルカの操作者に会うことだった。
最近、リルカはメンテナンスの時間が伸びているようだ。会話をしていても人の名前を忘れていたり、同じ内容を繰り返すことが多い。操作者に何かあったのではないか。直接会って確かめたい。そういうモモの熱意に押されて、香菜は、共に外出することを了解する。その代償に正体を見せてほしいとモモに冗談交じりに言うと、モモは、『それ』を香菜に見せた。
「私、本当は13歳なの。でもこの先一生、自分の足で歩くことなんて出来ない。わたしたちはみんなそう。しかもこの義体は長持ちしない。寿命が決まってるの。リーダーは自分をメディアに見せるって判断が出来たけど、他の皆はお互いのことを話さないし聞かないってことになってる…怖くて。わたしたちには今しかない、たった今しかないから、最高にアイドルでいたいの」

義体アイドルとしてデビューすることを家族から反対されたモモは、現在は専門の病院に入院しているという。他のメンバーも同じなのかどうかは分からない。けれども義体の状態は常にモニターされていること、にもかかわらず契約違反に近い行動がシャットダウンされないということには理由があると見当をつけた香菜は、モモの操作者がいる病院に行くことを提案する。モモへのお見舞いを口実に病院に入り込んだ二人。院内の最奥部、操作者のいるブロックへ向かう途中で、モモは、『WGC』の曲が聞こえてくることに気づく。迎え入れるようにドアの開いていた部屋にいたのは、既に90歳を超えるだろう寝たきりの老婆だった。
リルカの操作者である『赤金瑠璃香』はごく初期の義体開発に携わっていた研究者だった。自身が交通事故で脊椎障害を負って以降は義体の操作者となって研究へ携わり続けていたが、最後は『WGC』のオーディションに参加。赤金リルカとしてデビューを果たしていた。瑠璃香の病室には走り書きのメモがあった。―――人形になりたいと彼女たちがほんとうに望むなら、私は願いをかなえるだけ。
主治医からもう瑠璃香の寿命は近いと告げられる二人。だが、本来ならば義体を操作する能力がないはずの操作者を持ちながら、ルリカは泣き、笑い、歌い、踊っている。そこに魂があるからアイドルで居続けることができるんだろうと香菜に叱咤され、モモは、最後までリルカを支え続けることを心に決める。

文字数:1783

内容に関するアピール

重度障碍者が自分自身の介助を行うためのロボットの開発が始まっているという話、また24時間テレビ・バリバラなどの障碍者が出演するTV番組に着想を得ました。
『感動を売るためのショー』と揶揄されて久しい24時間テレビですが、その反面、『自己実現のためにテレビに出演したい』という出演者の感覚そのものは一般のタレントと変わらないのではないか? 出演者のその願望と、タレントを消費したいというニーズが噛み合った時、どんな偶像が誕生するのか? 
また、それだけのリスクを負っても、ステージに立ちたい、という情熱の存在そのものは否定しようがない。その情熱の在り方はどういった形になりうるのか、という部分を書いてゆきたいと思います。

拘束として、この作品は140字以内1セクションでの分かち書きで行います。完成した状態で合計142セクション以内に収めます。
想定しているのはツイッターアカウントでの小説連載です。そのため内容もエンタメに寄せ、ライト気味のアイドル百合SFを目指します。

文字数:431

課題提出者一覧