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梗 概

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SF作家のサトシ・フクオカは毎朝同じ時間に決まったルートを散歩することを日課としていた。

ある日、サトシは散歩中に人とぶつかる。しばらくすると音声メッセージの通知が鳴る。散歩中は通知をミュートにしていたが緊急扱いだったため通知された。彼はメッセージを開いた。

「立ち止まらずに聞け。お前に爆弾を仕掛けた。さっきぶつかった時に背中にシール型の爆弾を仕掛けた。そのまま歩き続けろ。立ち止まったら爆発する。通報したり、シールを剥がそうとしたり、シャツを脱ごうとしたりしても爆発する」

昔の機械のように加工された声だった。メッセージの送り主に心あたりはなかった。サトシは散歩のことをSNSで公表していた。詳細な時間や場所は伏せていたが、たまに投稿する写真などの情報から調べようと思えば特定することは可能だった。

続けて電話が鳴る。

「そのまま歩き続けてSF小説を書け。音声入力で書けるはずだ。完成したら指定のアドレスに送れ。爆弾を解除してやる。決して通報するな」

「例えば、信号が赤になったり、立ち止まらないといけない状況になったら、どうしたらいいでしょうか?」

「知るか。立ち止まれば爆発する。それだけだ。死にたくなければ歩き続けろ。そして書き続けろ」

電話が切れた。サトシは面倒なことから早く解放されたかった。彼はごく短い掌編を書いて指定のアドレスに送った。すぐに電話が鳴った。

「なんだこれは。こんな短いのはダメだ。常識的な長さにしろ」

「そんな。それでは、どれくらいの長さにすればいいですか?」

「知るか。自分で考えろ」

クソが。どうすりゃいいんだよ。

「おい、何か言ったか?お前の命はこちらが握っている。口のきき方に気をつけろ」

電話が切れた。どんなに急いでもまとまった分量を書き上げるには夕方までかかるかもしれない。それまで歩き続けないといけないのだ。これは長期戦になる。サトシは食料と飲み物を確認したが、そんなものはいつも散歩で持ち歩いていない。家を出る前に水分補給はしたが、朝食はとってない。サトシは電話をかけ直した。

「今度は可能な限り時間をかけて真剣に小説を書きますから、せめて飲み物と食べ物を買う時だけ爆弾を解除してくれませんか?」

「だめだ。飲み物と食べ物はこちらで用意する。そのまま道なりに進め。10分後に目につく車のボンネットに置いておく」

サトシは車から飲み物と食べ物を拾い上げた。その時、誰かが背中を叩いた。サトシは死ぬかと思った。電話が鳴った。

「大丈夫だ。安心しろ。爆弾を仕掛けたのは今だ。朝ぶつかった人物は関係ない。あれはメッセージを送るただのきっかけだ」

クソが!とサトシは叫んだ。

 

サトシは爆発せずに小説を書き上げられるのか。犯人は誰なのか。筆者が歩きながら考える。

 

ルール:内容ではなく筆者に課すルールで、前日に歩いた歩数の10%の文字数を毎日書く。執筆期間は9月21日〜10月10日の20日間とする。

文字数:1198

内容に関するアピール

内容に関しては、移動中に楽しんだり作業したりできるポケモンGO(ゲーム)やSurface Go(タブレット端末)、Oculus Go(ゴーグル端末)などが流行っているのでアイデアに取り入れました。

内容が他作品と重ならないか調べたところ、流行のバトルロワイヤルゲーム(PUBG、フォートナイトなど)の元ネタがキングの「死のロングウォーク」(選抜された100人の少年が最後の一人になるまで歩き続ける)だということに不思議な縁を感じました。

「ルール」は元々、梗概とアピール文については毎回必ず字数をピッタリにするという縛りを自分に課しているので、字数に関連したルールが自分の適性に合っていると思いました。本当は実作でも字数をピッタリにしたいと思っているのですが、実力がまだ伴わないので別の形のルールを課すことにしました。

内容とルールの相互作用で普段の自分には書けなさそうなものが書けたらいいなあと思います。

文字数:398

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 サトシ・フクオカは自宅でテレビを観ていた。視聴者参加型の賞金番組だ。ネットでフリーで観られるNFテレビには大型予算の番組が多い。スポンサーがいるのだ。サトシが観ているのは「ランナーランナー」で参加者がルームランナーで走りながらクイズに答えるというルールの番組だ。参加者は走っている時はいつ中止を宣言してもいい。クイズに正解すれば奨金額が増え、誤答すればスピードが上がる。中止を宣言すると、その時点での奨金額が貰えるが、ルームランナーから落ちれば何ももらえない。手堅い金額で中止を宣言するのが懸命だが、スタジオの観客に煽られ、中止を宣言しにくい状況になっている。俺だったら空気読まずに中止を宣言するけどな、とサトシは思った。

 サトシはテレビを消し、自宅を出てNFテレビに向かった。番組の参加招待状が来ていたのだ。招待状に書かれた集合日時が今日だった。NFテレビに視聴登録した者には抽選で招待状が届く。辞退することはできない。断ればこれまで無料で視聴した分の高額な視聴料が請求される。これは一般市民には払えない金額だ。無料視聴と引き換えに抽選で番組への参加義務が発生する。「ランナーランナー」のような番組には自発的に参加を希望する者もいるが、他の多くの番組は誰も好んで参加したりしない。サトシに届いた招待状もその種の番組だ。

 外は雨だった。幸先が悪い。余白を嫌うように建物の側面に広告が埋め尽くされている。雨と広告、ブレードランナーかよ、とサトシは思った。広告を非表示にできるのは一握りの富裕層だけだ。サトシのような一般市民は、広告にさらされることと引き換えに、公共料金が割り引かれている。視線が追跡されていて広告への注視時間が月に一定時間を超えないと割引はない。割引なしの公共料金は一般市民に払える金額ではない。

 NFテレビまでの移動中、サトシは広告を浴び続けた。NFテレビに着き、受付で氏名を伝え、招待状を提示した。サトシは生体認証を受け、ゲートを通過した。背後の招待客は生体認証で引っかかり、別室に連れていかれた。アルコールか薬物か何かの反応が出て、これから精査を受けるのだろう。わかるよ、俺だってシラフでこんなことやってられない。でも安易な道を選ぶと下層階級への重力が増すだけだ。クソみたいなこの地平で立ち続けるには、何とか頑張ってやっていくしかない。

 エレベーターの前に大きな吹き抜けのホールがあり、招待客たちが集まっていた。今回お呼びがかかったのはイニシャルがSFの者たちだ。サトシは他の招待客の氏名を推測したが何も思い浮かばなかった。ホールの中央には巨大な石板のようなオブジェクト、モノリスがあり、そこにNFテレビの番組が映し出されていた。モノリスの片隅にサトシたちが参加する新番組SFGoの宣伝が表示され続けていた。それが招待客を落ち着かなくさせていた。隣の客が「なあ、お前の名前は何て言うんだ?」と話しかけてきた。「まず自分が名乗れよ、礼儀知らずが!」とサトシは返した。無視するのが一番だったが我慢できなかった。

 SFGoの宣伝に番組スタッフの氏名がクレジットされていた。プロデューサーの氏名にに56, 389.と書かれていた。サトシはその意味を考えていた。これは人数を表しているのだろうか。

 招待客全員が巨大なエレベーターボックスに案内され、そこに乗った。エレベーターは上昇した。ボックスの中央にスツールがあり、そこに案内係の女性が座っていた。短い丈のタイトスカートを履いたその女性は、姿勢がエレガントで、うまく言語化するのは難しいが、横から見ると数字の5と4を重ねたようなシルエットだった。彼女の姿勢に見とれていると目が合った。数階おきに数人が呼ばれ、招待客は次々と降りて行った。サトシの順番は中央くらいだった。もっと上の階まで乗っていたかった、とサトシは思った。

 案内された部屋で服を脱ぐよう指示された。持ち物も全て預けなければならなかった。サトシは服と持ち物を指定のカゴに入れた。この椅子に座って待機せよ、とのことだった。裸のまま椅子に座るのは抵抗があったが、仕方なく指示に従った。裸のまま面接を受けた。面接官は男性と女性で二人とも裸だった。何なんだよこの状況は、これも試験の一環なのか?とサトシは言った。それには答えずに、前科はありますか?と女性の面接官は尋ねた。IDを調べればわかるだろ、とサトシは答えた。もちろんあなたに前科がないことは承知している、受け答えの内容ではなく、仕方を見ているのです、と男性の面接官は言った。茶番はやめろ、バカにするな、とサトシは言った。面接は終わった。

 次は筆記試験だった。試験監督はまた別の女性だった。裸だった。他の受験生の中には女性もいた。受験生は裸のままだ。せめて男女別にしろよバカ野郎、とサトシは怒鳴った。あなた方に人権などありません。あなた個人の問題なら構わないが、ここには他の受験生もいる。これ以上、場を乱すなら退場させます、と試験監督は言った。サトシは黙った。試験は一般的知識を問う内容で特に変わった問題はなかった。試験が終わった時、ペンを持ち帰ろうとしたが、出口でアラームが鳴り、没収された。日記を書きたいだけなんだが、とサトシは抵抗したが、認められなかった。

 個室に通され、ここで一晩過ごし、明日の番組収録に備えるよう指示があった。案内係の女性は裸だった。彼女は、ご希望のメニューをお申しつけください、最後の晩餐みたいなものです、お客様のご要望は現実的に可能な限りかなえられます、と言った。

「食事以外のご要望も可能な限りかなえられます。外出はできません。私をお抱きになりますか?」

「お抱きになんかならねーよ、この野郎!」

「その割には勃起なさっていますね。遠慮なさらなくてよろしいのですよ」

「勃起なんか健康な男性だったら何もなくても勝手におっ立つんだよ。寒けりゃタマタマも勝手に縮むしな。勘違いすんな。それより服をよこせ。あと端末もな」

「その要望は叶えられません」

「じゃあ、エレベーターの中にいた、服を着ていた案内係をここに連れてこい」

「服を来ている案内係は弊社が裸をディスプレイするに値しないと判断した者たちでございます。それでも構いませんか」

「構いませんでございますよ。なんでお前らは裸にこだわるんだよ。意味がわからねーよ。エレベーターにいた案内係を連れてこい。同じこと言わせんな」

「検討してみます」

 部屋に設置されたテレビは参加者への精神的影響を考慮して観られないようになっていた。サトシは先ほどの要望とは別に、時間を潰すための小説「ランニングマン」と、夕食のメインに鯛の丸焼きを頼んだ。食事をしている時に、エレベーターにいた案内係の女性が部屋にやってきた。

 翌朝、最終説明の時間です、とアナウンスがあった。サトシは読んでいた小説をテーブルに置いた。自分の計画はうまくいくだろうか。サトシは不安になった。裸の案内係がやってきた。無個性な服が用意され、それを着た。部屋を出る時に、案内係が、口の中に入っているものを出してください、と言った。サトシは、しぶしぶ鯛の骨を口から取り出し、テーブルに置いた。護身用にとっておいたのだ。

 エレベーターに乗った。昨日と同じように招待客全員が乗せられているようだった。下層階の客がすでに乗っていた。エレベーターボックス中央のスツールに座っている案内係は昨日とは違う女性だった。エレベーターは上層階の客を数階おきに回収し、最上階まで上昇した。

 最上階は1階と同じような作りだった。吹き抜けの代わりに高い天井があり、透明だった。今日も雨だった。男性のディレクターが招待客に番組の説明をした。番組の内容は招待状に書かれている通りですが、他にも説明事項があるのでよく聞いてください、と彼は言った。

 皆さんは番組SFGoが始まったら狩りの対象になります。SFGoは視聴者があなた方イニシャルSFをハントする視聴者参加型の番組です。視聴者にはSFGoアプリが配布され、あなた方SFの位置がわかるようになっています。アプリを持ったハンター視聴者があなた方SFの服に触れたら、狩りの成功です。これからあなた方に配布する端末にもSFGoアプリが入っています。その端末があなた方の位置情報を知らせます。しかし、このままでは圧倒的にあなた方SFが不利なので、端末が発信する情報は5分前の位置です。端末であなた方SFご自身の5分前の位置情報が確認できます。端末はSF本人が持たずにどこかに隠しても構いませんが、ハンター視聴者が端末に触れた時点で狩りは成功となり、端末所有者のSFは脱落となります。逃げた時間に応じてSFには賞金が入ります。SFを狩った視聴者にも賞金が入ります。

 ディレクターの説明の後、プロデューサーが現れた。あなた方はイニシャルSFの中でもスポンサーの目にかなった選ばれし100人のSFです、あなた方の健闘を祈ります、と彼は言った。他のSFはどうなったんだよ!とサトシは叫んだ。それは知らない方がいいでしょう、特にこれから番組に参加するあなた方にとっては、と彼は答えた。

 ディレクターが再び説明を始めた。あなた方の経歴や昨日の筆記試験と面接試験の結果に応じて、償金額が変わります。ハントするのに難易度が高いと判断されたSFは償金額も高くなります。手堅く捕まえやすそうな低金額のSFを狙うハンターもいるでしょうし、難易度の高い高金額のSFを狙うハンターもいるでしょう。これがあなた方の償金額です、とディレクターは言った。1階にあったのと同じタイプのモノリスに100人の償金額が表示された。サトシは上位にランキングされていた。

 なんで俺が上位なんだよ!とサトシは怒鳴った。それはあなたがスポンサーの目にかなったからですよ、とプロデューサーは答えた。筆記試験と面接試験の様子を見てスポンサーはあなたに興味を持った。それは反感でもあり、あなたが狩られたらさぞかし愉快だろうし、万が一あなたが逃げ延びてもそれは悔しいけれどスリリングでもあり、どのような結果になっても面白いと判断されたからあなたは上位なんです。私も同感だし、個人的にあなたを応援していますよ、サトシ・フクオカさん、とプロデューサーは言った。上等だよこの野郎!とサトシは言った。プロデューサーは笑った。

 ディレクターが説明を続けた。これから番組がスタートします。スタート開始5分間は位置情報は発信されませんし、狩りにあっても無敵の状態です。5分経過したら狩りの判定が有効になります。5分後であればスタート地点で狩りをするリスポーン・キルのような戦略も有効です。ですから可能な限りこの建物から早く出て遠くに逃げることをお勧めします。エレベーターは皆さんが乗ってきたものの他にもう一つ、1階に直通のものがあります。階段で降りても構いません。スタート時の様子も5分後に放送します。それでは用意はいいですか?とディレクターは言った。いいわけねえだろクソ野郎!とサトシは叫んだ。ディレクターは無視して、エスエフゥ、ゴーッ!と開始の合図をした。

 開始の合図とともにSFたちは1階直通のエレベーターに殺到した。直通エレベーターは全員が乗ってきたエレベーターよりも小さく、全員乗れるようにはなっていなかった。ディレクターの説明中に移動して直通エレベーターの入り口近くを確保できた者たちが乗って、すぐにドアを閉めた。浅ましすぎるだろ!カンダタかよ!地獄へ落ちろ!とサトシは言った。直通エレベーターに乗れなかった者たちは、もう一つの全員が乗れるエレベーターに乗った。彼らも全員が乗るのを待たずにドアを閉めた。お前らも地獄へ落ちろ!とサトシは言った。2つのエレベーターに乗れなかった者たちはエレベーターが帰ってくるのを待つか、階段を使った。時間は無慈悲に過ぎていく。

 SFがほとんどいなくなり、5分経過の時間が近くなってもサトシは最上階にいた。ディレクターとプロデューサーがやってきた。あなたは諦めたのですか、とディレクターは尋ねた。俺は最後でいい、とサトシは答えた。逃げてもらわないと番組が盛り上がらないので困りますよ、とプロデューサーは言った。正直、俺はもう疲れた、こんなクソみたいな世界で頑張り続けるのはしんどい、死なせてはもらえないだろうが、少なくても俺は、もう頑張るのをやめる、とサトシは言った。まあ、それもいいでしょう、この映像を見て楽しむスポンサーもいるでしょうし、とディレクターは言った。俺をつかまえたら高額な賞金がもらえるんだろ、俺は昨日の夜、十分楽しませてもらった、お礼に俺を捕まえさせてやるよ、とサトシは言った。プロデューサーはディレクターに、サトシの腕をつかませた。ディレクターは時計を確認した。あと数秒で番組開始から5分が経過する。

 5分経過した。最初の狩りはスタート地点狩りでハンターはディレクターか、心が折れる時の面白い映像も撮れたし、これも悪くない、とプロデューサーは思った。

 サトシはプロデューサーの肩を叩き、お前もSFだろサバク・フノボリと言った。俺はもうSFじゃない、番組開始直後に結婚したんだ。昨日の夜、エレベーターにいた案内係を部屋に呼んで番組開始直後に結婚の手続きをするよう頼んだ。SFGoの宣伝にクレジットされていたプロデューサー名 56, 389. はファミリーネームを先に表記する方法だ。三八九・五六でサバク・フノボリって読むんだろ。上位ランカーの中にお前の名前があって確信した。案内係のアヤコ・ミヤムラが俺と結婚してくれるかどうかは賭けだったが、俺の提案に乗ってくれたようだ。もちろん昨日の夜に彼女には一切手を出していない。お前のところの社員は有能だな。お前は本名を隠してこの建物で最後まで逃げ切って高額の賞金を手にし、いつもお世話になっているスポンサーに渡す予定だったんだろ、富裕層だけで金を回してるなんて汚いぜ、どうりで俺たちに金が回ってこないはずだ。

 おい、番組を中止しろ、とプロデューサーはディレクターに命令した。ディレクターは従わなかった。ディレクターは自分のやり方に介入してくるプロデューサーを日頃から疎ましく感じていたのだ。最高の映像ですよ、サトシさん、サバクさん、とディレクターは興奮していた。

 サトシはアヤコにメッセージを送った。

「あんた最高だぜ。エレベーターで一目惚れしたというのは本当だ。今回の件でさらに惚れ直した。よかったらここまま結婚してくれ」

「こちらこそよろしく。でも私たちの結婚記念としてあなたのイニシャルはSFがいいと思う。とりあえず夫婦別姓にしよう。番組が終わったら手続きしておくね。姓の件は、もし結婚が継続して子どもができたら改めて考えよう。またこういう番組があるかもしれないし」

 サトシのSF人生は続く。

文字数:6064

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