ピキューンとドカーン

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梗 概

ピキューンとドカーン

 雪の上で、二人の子供が雪合戦をしていた。距離を取ってしゃがんでは雪を固めて、相手に向かって投げる。ドゴドゴ、フギャ。なぜ雪合戦をしていたかと問われれば、二人は話さないで済むから、と応えたであろう。だが二人は話せなかった。擬音語、擬態語のみが口から洩れた。言葉は奪われ、二人はその犯人を追っていた。
 その犯人はサクシャという名前だった。

 言葉を奪われた二人が頼ったのは、テオシンテという名前の稀代の絵描きだった。二人はテオシンテに出会い頭こう言った。
「ピキューン」
「ドカーン」
 首をかしげたテオシンテだったが、その二人の傍らにいた女性が、
「二人の名前です」と言い、それぞれを指さして、栗毛の方がピキューン、黒いくせ毛の方がドカーンです、と言い、二人はあなたにサクシャを見つけてほしいと考えていますと言った。女性はカオマンガイと名乗った。ふざけているのかと、テオシンテは肩をすくめた。
「なぜわかる?」
「そういうテオシンテという男性を紹介してほしいという依頼を二人から受けましたので」
 話を聞くと、どうやらその依頼もカオマンガイが勝手に予想したのだというから呆れた。
「で」と例の二人にテオシンテが向き直る。「なんだっけ? 名前」
「トトト」
「ポイン」
「さっきと違うじゃねえか」
「まあ、そうでしょう。わたしはピキューンとドカーンと呼んでましたが」
 カオマンガイが肩をすくめてみせる。
「で、依頼がなんだっけ」とテオシンテ。
「サクシャを」とカオマンガイが言いかけ、二人が、「ペンペケペケペケ」「ヒュオッ」と口を挟む。「探してほしいと」
「どうせそれも類推だろう」
 テオシンテがそう言うと、ピキューンとドカーンが首を横に振る。「どうやら、それは本当ですね」とカオマンガイがこともなげに言う。

 こうしてサクシャ探しの旅が始まった。カオマンガイは「これでわたしへの依頼は済みましたから」と帰ろうとしたが、一人にしないでくれとテオシンテが懇願し、同行することになった。
 どこを探せばいいのかとテオシンテが二人に聞いても、二人は首を横に振るだけだ。
「フルフル」
「フルル」
「チルチルとミチルみたいにいいやがって」
 二人は文字を書けず、ボディランゲージも下手くそだった。そのせいで、一行は桑名で焼き蛤を食べたりと道草を食いつづけることになった。
 と、まあ色々とあった。
 色々あった結果、サクシャを見つけた。鏡写しのパソコンというものでサクシャを画面内にて発見した。鏡写しのパソコンは台湾の夜市で買った。
「ペケン! ペンペケ!」
「プンスコ。プンプン」
 とまあ怒っていることがテオシンテにわかるくらいには、一行の旅は長かったが、主に食べあるきの旅だった。本気で怒っているわけではないことにもテオシンテは気づいた。
 二人は画面内のサクシャで遊び始めた。勝手気ままに属性を付与し略奪した。
 ある瞬間でブラックアウトした。「ポコペン」「アババ」とピキューンとドカーンが言った直後だった。世界が終わった。

文字数:1232

内容に関するアピール

 拘束内容は「擬態語と擬音語でキャラが喋りまくる」と「一人称で書き切る」
 拘束下で書きなさいということでしたから、まず、セリフがなにを言っているのかわからない人物を出そうと考えました。しかし、一人称で書こうとも考えていましたから、テオシンテという語り手を必要としました。なぜ、こういったバカネタになったのかはちょっとわかりません。最近、固めのものを書いていた反動だとおもいます。
 作中のサクシャは、当然、作者のことですが、ピキューンとドカーンの二人がいじくりまわすシーンは作者と作中キャラの立場が反転しますから、実際にどうなるか、いまから恐ろしいです。

文字数:276

課題提出者一覧