フォーチュン・フェイデッド

印刷

梗 概

フォーチュン・フェイデッド

ある日、おじに”お前に家をプレゼントしてやろう”と言われ、返事をする間もなく僻地へと連れられてきた私。其の家はコンクリート打ち放しの無機質な家で、なにやら異様な雰囲気を纏っている。玄関を抜けるとそこには雑貨店とカフェが併設されており、賑わっている。
「この階はあとにして、2階で説明を受けなさい」
 おじの言葉に乗せられるままに、エスカレータで二階へと向う。
2階は1階の雰囲気とは打って変わって、一面仄暗い。其の中である1辺の壁だけがプロジェクタで照らされていて、謎のイントロムービーが流れている。知らない男?が私に向かって何かを説明しているのだが状況をつかめない私には何を言っているのかさっぱりわからない。
 ループするイントロムービーを2,3回見終わったあと、3階に案内された。そこには無数の扉が犇めいている。一つ一つが違う形、違う色を呈しており、しかし其のどれもが異様だった。
「さあ、自分の部屋を選びなさい」
 おじは私に選択を迫る。見渡すとすでに幾人かの男女がそれぞれその異様な扉から出入りしているのが見える。其の情景に少し安堵したのか私は扉を選ぶことにする。其の中でひとつ、気になる扉があった。私の彼女が好んでいるアニック・グタールの匂いがほのかに扉の奥から香ってくる。この扉に決めた私はドアノブに手をかける。
「それは間違いだ」
 聞き覚えのある声が空間に反響し、私の視界は暗転した。

***

目覚めると研究室の後輩とデートしている最中だった。後輩のことは全く気にも留めていなかったが、向こうは案外好意を寄せているようで積極的に感じられた。
「たこ焼きが食べたいな」
 食欲をそそるソースの匂いに釣られたのか、後輩はたこ焼き屋に吸い寄せられていく。私はスルーしようとしたのだが、其の瞬間意識がブラックアウトしかける。その感覚は恐怖、死、様々なネガティブな要素を孕んだ感情を私に提示してくる。怖くなった私は後輩のあとを追い、たこ焼き屋に入る。
 後輩は私にたこ焼きを奢ってもらったのがさぞ嬉しかったのか、はたまた、ただたこ焼きがおいしいのかわからなかったが、頬を緩ませて美味しそうにたこ焼きを頬張っている。なんとなく安堵する私。
 そこにある女性が突然現れ、背後からこうつぶやく。
「何してるの」
 彼女は私にとって大事な人であった。この状況を勘違いされるのはまずいと悟った私は必死に取り繕うが、もう遅い。
「お願いだ、浮気じゃないんだ」
「それは間違いだ」
 視界が暗転する。

***

目覚めると、私は友人Aと祭りに来ていた。津軽弁を話す友人Aは一体何を言っているのかわからなかったが、私達はどうやらナンパをしに来ているようである。出店をまわり小腹を満たしながら気になる相手を探す。すると偶然通りかかった友人Bが女の子を3人自宅へ呼んでいるから来ないか、と言う。またとない機会に心踊った私達は友人Bの家へ向う。その時、彼女らしき人物とすれ違ったような気がしたが私が気に留めることはなかった。
 友人Bの家で宴会もとい合コンが始まった。其の中に一人気になる子が居て、楽しい雰囲気になる。女の子たちが一旦席を外したいというので買い出しに外に出る私達。買い出しを終え、”一番右の子がタイプだわ”、”真ん中の子、お前に気がありそうじゃん”などと、お互いの感想を交わしながら帰宅すると、私は驚愕する。
女の子全員の顔が彼女の顔になっていた。そして彼女”達”が一斉に私の方を向く。
「おいおい、どういうこt」
「それは間違いだ」
 視界が暗転する。

***

その後、目覚めるたびに様々なシーンから始まり、彼女から発せられる一言で暗転を繰り返す。

***

気がつくと、私はカメラを握りしめていた。知らない男に指示して、何かを撮影しているようだ。私は彼に本番の合図を出す。3,2,1……。
「ようこそ!音源はあなたの夢を叶える水分補給!大義名分はちゃんとしたか?禁止の戸締まり、鳴らすのはエアコンダクタ、無駄遣いはこまめに!冷蔵庫を掲げたあなたにもってこいのエンターテインメント!夢に従え夢に踊れ!危険因子は鍵!見たものそのままが正義だ。死して償え彼女は目の前!」
 彼はその後も意味不明な文字を羅列していく。ちぐはぐで整合性の取れない文章を紡ぐ彼はしかし、何かしらの説得力を持ち合わせていた。正直言って意味不明な文章でしかなかったがなぜか私には全て合点がいったように感じた。なにかが私の中で真理を得たのだ。私は遠い昔に見たはずのイントロムービーを録っている!
 私は膨大な夢の集合に飲み込まれてしまっていたのだ。少し冷静になって過去の記憶を反芻すると常に何かがおかしかった。そして、気になる点は彼女だ。いつも彼女が現れては視界が暗転する。彼女が私にとっての鍵であり、危険因子であったのだ。彼女が目の前に居る限り私は夢のループから逃れられないのだろう。そして彼女は毎回私の前に現れる。それを回避するには一体……。
 その時録画していた彼が私の方を向き口を動かす。
「死して償え」
 もはやこの状況自体に翻弄されている私は奇天烈な彼の言葉さえ真理に映る。自分の意志で夢から脱することこそが夢群から抜ける唯一の方法のように思えた。
その時、私の眼前に彼女が現れる。
「それは……」
 視界が暗転する。

***

目を覚ますと、自室のベッドに横たわっていた。大量の汗をかいている。ああ、早く命を絶たねば。この夢のループから抜け出したい――。
私は見覚えのある机の引き出しをあけカッターを取り出す。自殺する勇気など無い私だったが、夢から抜け出したい一心で勇気を振り絞る。
その時部屋の扉があいてアニック・グタールの香りが漂う。彼女が来てしまった。急がねば。
 私は首筋にカッターを這わせる。覚悟はできている。
「なにやってるの!やめて!」
 彼女が近寄ってくる。ああ、早く本当の彼女に会いたい。そして私は勢いよく首筋を掻っ切った。鮮血がほとばしる。
これで夢から抜け出せる……。安堵した私は目をゆっくり閉じた。

***

しかし、彼(私)は二度と目を開けることは叶わなかった。既に夢から醒めていたのだ。狂った夢に魅せられた彼(私)はついに現実と夢とを混同し、自ら命を絶ってしまったのだった。そして彼(私)は今も無機質な家の扉を出入りしている。

文字数:2566

内容に関するアピール

制約:夢に見た出来事を基に書く。

詳しく説明すると、情景、登場人物、設定、その他を基本的に夢に忠実に書くことを目標にしました。実際梗概は私が梗概を書くに至るまでに見た夢であります。自ら設定を作るのではなく夢で強制的に設定された情報を基に物語を紡ぐことで偶発的な面白さが生まれるのではないかと考えました。

実作にあたっては実作を書き終わるまでに見た夢の情報も追加しつつ整合性の取れる形で書こうと思っています。

文字数:201

課題提出者一覧