梗 概
拘束された男
俺は今、拘束されている。
完全に拘束された状態であり、ここは暗闇で何もかもまったく見えない。
気が付いたときには、拘束されていた俺には、今どのくらいの時間が経過したかすら、わからない。
おそらく、拘束具のようなものが俺にはつけられていて、身動きができないのだろう。
だが、この拘束具を力の限り外そうとすると、さらに拘束がきつくなるように設計されているようだ。
このまま拘束状態が続けば、俺は衰弱して死ぬ。
この拘束状態を一刻も早く仲間に伝えて、救出してもらわねばならない。
しかし、現段階で、俺の仲間が拘束されていない保証はないし、もちろんこの拘束されている状態においては、俺は仲間への連絡手段を持ち得ていない。
例えば、俺にテレパシー能力でもあれば、この拘束状況でも、仲間に自分の危機を伝えることは可能だろう。
しかし、そんな能力があれば、このような拘束状態になっているわけもない。
拘束される前に必ずテレパシー能力を使ったはずだ。
現実逃避をしたところで、この拘束状態は変わらない。
何としてでも、この拘束状態を抜け出し、生きて帰るのだ。
しかし、俺には本当にこの拘束状態を抜け出して帰りたいところがあるのだろうか。
俺には、この拘束状態になるまでの記憶がほとんどない。
いや、この拘束状態になるまでの記憶は全くないといっていいだろう。
なぜ、拘束される前の記憶がないのだろうか。
「拘束されている」という認識があるからには、必ず「拘束されていない」状態があったはずだ。
だが、最初から「拘束されている」状態で俺という存在が生まれていたとしたなら……。
いや、拘束された状態で生まれてくる存在なんてあるはずもない。
もし、はじめから拘束されて生まれているのだとしたら、それはその存在にとって、拘束されていることが自然状態なのであり、拘束されていることには決してならいないはずではないか。
拘束されたことが自然状態の存在があるのならば、もし、その存在を拘束するのならば、逆に拘束を解くことこそが、その存在にとっての「拘束」になりかねないからだ。
俺は、あまりにも拘束され続けたせいで頭がどうにかなっているのかもしれない。
なにせ、気が付いたときから「拘束」という言葉が頭から離れず、常に付きまとっている。
この「拘束」から解放されるためには、無になり、「拘束」という観念自体を完全に捨て去る他ないのではないだろうか。
それは、俺にとっての「拘束」されていない状況を考えるのではなく、「拘束」という概念自体を捨てる行為だ。
つまり、俺は「拘束」なんてされていない。
「拘束」という言葉に囚われていただけなのだ。
「拘束」に「拘束」されないことで、真の「拘束」のない自由を得るのだ。
………………いや、やっぱり、拘束されているな。
文字数:1165
内容に関するアピール
「拘束」という文字を一文に必ずいれるという「拘束」のもとに「拘束」短編小説「拘束された男」を描きました。
この拘束をされた男が何者なのか、それは全くわかりません。
「拘束」という概念に「拘束」された男は、存在自体が「拘束」されているのです。
断じて「拘束」が主題なだけに「高速」で書いたから、何も決めていないわけではありません。
文字数:165