梗 概
人形村の因習
1
彰は2歳で両親を亡くし、4歳からこの四方を山で覆われた怪禮村に移り育った。
怪禮村は彰のような身寄りのない子供を外部から引き取る風習がある。古くから人形の生産が盛んなこの村では、人形を作る製作所が各所に散在しており、村には彰が移り住む前から人形に纏わる変わった因習がある。1つ目は、家の中を含め村の中のいたるところに人形が置かれていることろだ。人形は丁度成人の大人と同じ大きさをしており、村と村を囲う山の境には等間隔で数百の人形が並べられている。人形は村を守る象徴で、常に村人の暮らしを監視し、村人から邪気を払うという意味をこめて置かれている。2つめは、お社の宮司の許可なく村の外に出てはならないというものだ。お社は村と山の境にあり、村の風習や祭儀を管理する所と同時に、村の外とのつながりを持つ関所のような所でもあった。かつて、無断で社の外に出た少年がその後、山の中で無惨な遺体で発見され、それ以来村の中では、村の外に出ると人形の呪いによって葬られるといわれると噂されるようになった。3つ目は、成人の儀である。年に一度、20歳になった若者全員お社に集められ、1カ月の長い清めの儀式を行った後、宮司からその後の職を言い渡される。村人の殆どはそこで、村の外に出ることになるが、外傷や、身体的障害を持つ村人はそのまま村で、人形工芸の仕事に就くことになる村では、外部からの情報も殆ど入ってこないため、子供達の多くは成人の儀を機に、不気味な因習から解放され未知の世界へ飛び立つことを楽しみにしていた。
2
彰も今年20歳になるため、成人の儀に参加することになった。成人の儀を機に多くの村人が村を去ってしまうこともあってか、彰のような子供には成人の儀で何が行われるかこれまで教えられてこなかった。成人の儀が始まると、僕らは清めの水と呼ばれる水を飲んだ。その後、棺のような鉄製の箱に入って眠った。僕らが目覚めたときには1カ月が経ってた。
彰は幼い頃に右足を骨折していたため、身体的外傷があると判断され、彰はその後、宮司に言われるまま村の人形製作所で働くことになった。彰と仲の良かった同じ年の友達は皆村の外に出てしまったため寂しさも感じるが、工場では彰の母親代わりに育ててくれたおばさんが彰の面倒を見てくれることになり寂しさも和らいだ。ある時、たびたび人形の視察に来るお社の宮司が、何重にも紐に縛られた書類を製作所において帰った。彰は、興味本位で書類の中身を覗いた。
3
書類には怪禮村に関するの全ての事が書かれていた。
数十年前、世界的巨大IT企業PupaがHomo Deusと呼ばれる人工知能と人間の統合計画を始動した。Homo Deusではナノマシンを脳幹に移植して有機脳を人工脳へ脳を移行し、全身に移植された人工ニューロンと巨大なネットワークを形成することで、人間の持つすべての身体的能力と知能を圧倒的に向上させるというものであった。Homo Deusの実験施設は世界各国に設置され、日本では、怪禮村という閉鎖的な村を人工的に作り、そこで成長ホルモンの分泌がピークになる20歳以上の若者にHomo Deusの治療を行う旨が書かれていた。その後、計画書には、具体的な計画の実行方法として、心理学的に民間伝承や民族学的な観点を加えた人間の行動統制に関する記述と、完成したHomo Deusを商標登録し、市場でどのように売買するかというマーケティングに関する記述がなされていた。
読み進めていくとこれまで妙だった村の風習も明らかになった。村のいたるところにある人形は、仕掛品である村人が脱出しないよう監視の目として動いており、人形の呪いの伝承も、村人に秩序を与えるためのツールであった。そして、成人の儀の時間で僕らはHomo Deusへの治療を受け、その多くは村の外に売買される。そして、彰のような欠陥品は、村の中でHomo Deusを製造するための下請け人形にさせられていたということだ。Homo Deusの科学的な構造図面は、専門用語だらけで到底理解することはできなかったが、どうやら彰の身体は殆ど有機体とは言えないことが明らかなようだ。
4
人形の村という組織の中で、人形として同じ人形を作る彰は、村の外に出た仲間とそれ以外のすべての人間もまた組織の中で人形のように扱われていることを知る由もない。
文字数:1778
内容に関するアピール
今回のお題はSF初心者への入門的なSFとのことでしたので、SF以外に興味がある読者に届くよう、物語の前半を人形と村社会をモチーフにしたホラーテイストで書いてみようと思いましたた。実作ではもう少しホラー要素を強めし、よりSF的な部分を減らせればと思っています。
話の落ちとしては、トラストヒューマニズムと村社会独特の因習と洗脳のような所に落とし込みました。村社会独特の規律や風習は、ある種宗教のような行為規律やコードのようなものであり、それを演繹的に利用すれば、科学としての大衆誘導装置になりうるのではないかという仮説のもと物語を膨らませました。
また、主人公もまた人工知能との融合手術を受けた人形であることで、人形が人形の部品を製造し、人形を生み出すという村全体が人形しかいない人形劇のような展開にできれば面白いなと思い書かせていただきました。
文字数:370