マンモス大発生

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梗 概

マンモス大発生

世界中に突如としてマンモスが大発生した!

原因は不明。出現地域、頭数に規則性は見つかっていないが、マンモスが出現した場所では都市機能は壊滅し、死傷者も数え切れないほど続出している。各国の軍隊が出動してマンモス退治に乗り出したが、すべての戦車は踏み潰され、ならば遠隔からミサイル攻撃を浴びせようとするも、着弾直前にあの長い鼻に捕まり投げ返されるという始末。いや、不始末。上空15000メートルを飛んでいた偵察用ドローンのカメラには、数頭のマンモスが鼻をぶん回して飛び交っている映像が記録されていた。

「もはやこれは我々の知っているマンモスではない。もっとも我々はマンモスについて何も知らないが」

これは連合国軍の遠藤ジョー中佐(兼臨時広報官)の発言である。中佐の発言を皮切りに、各国でマンモス対策研究が始められた。

同時期に、日本の女流サムライ・横浜徹子が自分のYouTubeチャンネルで生中継した映像が注目を浴びた。

「たった今、マンモスを横浜流秘奥義・爆裂惨殺剣で真っ二つにしました。もう血飛沫がすごいです!あ、待ってください!こいつ、再生し始めています!内臓から鼻が……がっ!」

映像は1日で2200万再生され、横浜徹子のチャンネル『サムライウーマンTV』の登録者数はこの日で1億人を突破した。(しかし広告収入が彼女の手に渡ることはなかった)

鳥取県のマッドサイエンティストである仏飛貴弘(ぶっとび たかひろ)が、崖から転落して気絶していたマンモスの腹から大量の卵(卵!)を命がけで採集した。仏飛はマンモス卵の発生を観察し、原腸陥入時に原腸内に入った細胞の一部が消えてしまうという現象を確認した。消えた細胞は別の空間に移ったのだと考えた仏飛は、この別空間を「異胚葉空間」と名付け、横浜の映像からある仮説を立てた。

「このマンモスのような生物は、胚発生時に細胞の一部を異肺葉空間に送り込んで、そこに自らの身体パーツをストックしておく。そして身体の一部が失われると異肺葉空間から迅速に予備の身体パーツを引き出して、“復活”するのだ」

仏飛の研究結果を受けて、「我々はこのわけのわからない異世界の生物にやられてしまうのだ」と誰もが思ったが、横浜流の継承者であるグレッグ・ヨコハマ(渡米中)は違った。彼は姉弟子の仇を討つ決意を固めた。マンモスを爆裂惨殺剣で真っ二つにし、爆裂逆進剣で異胚葉空間に侵入する。侵入した後のことは無計画だったが、それでこそ横浜流の継承者である。彼は計画を実行に移した。

アリゾナの荒野をのそのそと歩いていた一匹のマンモスに爆裂惨殺剣を放った。数秒後、それは“切れ込み”としか言いようがなかったが、切断面の中心付近に、歪んだ黒色の“切れ込み”が入った。“切れ込み”から鼻が出てくる瞬間に爆裂逆進剣を放ち、グレッグは異胚葉空間に侵入した。

マンモスの鼻づたいに異胚葉空間内を爆裂逆進剣で突き進んでいく。この長い鼻はどこまでつづいてるのか、グレッグは自分の距離感覚、時間感覚が失われていくのを感じていた。周囲にはマンモスの目、脚、胴体、しっぽが、万華鏡の内部空間のように、七色の背景に所狭しと散らばっていた。それらの大量のパーツは自分のすぐ目の前にあるようにも見えるし、はるか離れた場所にあるようにも見える。やがて鼻のつけ根が見えてきた。そのすぐ上には大きなふたつの目が、やさしくこちらを見ている。グレッグは我に帰った。剣を止め、あたりを見回す。あらゆる方向からマンモスの目がこちらを見ている。まるで何かを期待しているかのように、じっと見つめてくる。

遠くからグレッグの名を呼ぶ声が聞こえてくる。横浜徹子だった。

「イキテイタンデスネ」

「ああ。とっさに爆裂逆進剣でマンモスに突っ込んだが、気づいたらここにいたんだ」

「コレカラドウシマスカ?」

「分からない。日本に戻りたいが、ここでは何をしても手応えがない」

時々、遠くのほうでマンモスの身体パーツが消える。おそらく地球のどこかに向かったのだろう。グレッグと徹子は手近にあったマンモスの目を、剣先でグジュグジュといじりながらこんなことを思った。

「こうしている間にも地球ではマンモスが暴れ続けているのだろう」

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内容に関するアピール

いつも、どんな読者にもワクワクしてもらえるSFを書きたいと思っています。実作ではマンモスの“手に負えなさ”を思いっきり書くつもりです。

今まで数々の科学者によって、様々な物理法則が発見されてきました。しかしそれらは、私たちが見ている宇宙が今たまたまその法則に従っているように見えるだけであって、ちょっと時間が経つと人が変わったようにガラリと性格(法則)を変えたりするのではないでしょうか。

友人の性格が急に変わると、「お前ってそんなキャラだっけ?」と戸惑ってしまいます。それでもこの相手と付き合わなくてはならない場合には、私たちはとりあえず食らいつくことしかできないのではないでしょうか。食らいついたその先に、またその友人とうまくやっていく手がかりがつかめるかもしれませんし、何も見つからないかもしれません。その時はもう、ストローの包み紙を折りながら、グラスに残った水でも眺めましょう。何も解決しませんが、他に何ができるでしょうか。

自然災害が多発しているここ数年、「人間の作ったものは所詮自然には敵わないのか」という思いが強まってきました。ならば人類の自然に対する態度は「自然を克服する」ではなく「自然となんとかうまくやっていく」であるべきではないか、と今更ながらこんな思いにふけっています。

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課題提出者一覧